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ワールドラグビーが実施する一次調査プロジェクトの概要

パート1: ハイレベルサマリー

ワールドラグビーが実施する一次調査プロジェクトに関連する重要点のハイレベルサマリーを次の表に示す。より詳細な内容は下記の「パート2」を参照のこと。

ワールドラグビーは、同団体の プライバシーステートメント に従って全ての個人情報を処理し、ワールドラグビーのデータ保護に関する一般方針、慣行および手順、また当団体(および当団体のデータ保護オフィサー)へのお問い合わせ方法、およびデータ保護法の下で個人がどのように権利を行使するかについての詳しい情報についてはプライバシーステートメントで説明する。

プロジェクト名

概要

調査目的

評価の必要性および範囲

保持

第三者の関係者

HIA調査

現在のHIAプロトコルの有効性を保証し、競技規則の安全性についてレビューを行うための、エリートプレーヤーを対象とした脳震盪の発生件数および原因に関する調査。

HIA調査プロジェクトの総合目的は、HIAプロトコルの有効性を計測的に評価し、脳震盪の発見と症状管理において改善が必要な点を特定すること。

HIAプロトコルの実施により収集するデータの処理は、脳震盪のリスクについて理解するため、またより良い症状管理をするために必要であり、プレーヤーウェルフェアを促進・強化するために重要な役割を果たす。

HIA調査に従って処理する個人情報の範囲は下記に説明する理由に基づく調査目的に相応していると考える。

HIAは、ラグビーで発生する脳震盪についての見識を得るため継続的に行なっている調査で、これらの原則に従ってデータを保存する。[プレーヤーが引退したときにはそのプレーヤーのデータをリサーチ用データの中で完全に匿名化する。(つまり、そのプレーヤーに関連する一意のI Dを報告書から削除する)]

 

(HIAプロトコルに従ってHIA報告書に記入する)チームのメディカルスタッフ

 

メディックスが報告するデータの品質保証を行う独立スポーツ研究機関であるスポーツ・アンド・エクササイズ医学研究所で使用する技術を提供し、またWRRUの研究知見の蓄積、学術論文作成を支援しているニュージーランドの企業、CSx リミテッド。

 

損傷監視調査

ワールドラグビーの大会、およびその他の特定の大会およびイベントで発生する損傷の発生件数、発生状況に関連したデータの収集と研究。

損傷・疾患監視調査プログラムの総合目的は、関連大会でプレーヤーに発生する損傷および疾患の発生と特徴について調査すること。

 

ISSを通じて収集したデータの処理は、プレーヤーの安全を継続的に改善・強化するために損傷リスクについての理解を深め、管理するために必要。

 

特定の大会で行う損傷監視調査用アーカイブプロセスを構築し、ISS調査報告書の結果を受けて、今後行っていく縦断的研究のため、データベースを完全に匿名化した。

Team medical staff (who submiit injury reports in accordance with the injury surveillance study methodology into the prescribed ISS application).

 

(損傷監視調査の手法に則り、定められたISSのアプリケーションに入力する)チームのメディカルスタッフ。

 

ISSデータの報告・管理用アプリケーションの開発とサポート業務を、ワールドラグビーを代行して行うDovetail Technologies Limited。

 

ワールドラグビーの研究部が業務委託する請負業者およびその他の調査担当者。

 

 

パート 2: 詳細概要

1. 頭部損傷評価調査プログラム

a) 背景

脳震盪は様々な期間で発症・改善する外傷性脳損傷で、神経機能に様々な傷害を引き起こす可能性のある損傷です。一般的にスポーツ、特にコンタクトや衝突を伴うスポーツにおいて関心を集めている重要トピックは、脳震盪がプレーヤーに及ぼす短期・長期的な健康への影響についてです。

ワールドラグビーが掲げる全般的方針としては、ワールドラグビーに関わる誰もが脳震盪の兆候と症状を認知できるようになるべきで、試合やトレーニング中に起こる脳震盪の兆候や症状のプレーヤーを見つけて退出させることができなければならないということです。この方針は脳震盪が疑われる症状、または明らかに脳震盪である症状のあるプレーヤーがラグビーの試合、またはトレーニングに参加してもいいかどうかという問いに対する「ゼロリスク」のアプローチを反映したワールドラグビーの「Recognise and Remove」の原則に集約されています。

頭部損傷評価(「HIA」)は、プレーヤーに脳震盪脳が疑われる場合に一時的交替を適用するというワールドラグビー管轄のグローバルトライアルから導入されたものです。このトライアルによって、特定の指定プロトコル(「HIAプロトコル」)に従って、医療従事者が当該プレーヤーのHIAを行うため一時的交替を適用できるようになりました。特定の指定プロトコルに従って当該プレーヤーの処置にあたる医療従事者がそのプレーヤーが脳震盪を負っていないこと、そしてプレーに復帰することができることを確認することができるようになり、脳震盪を負っていないことが確認できない場合は、一時的交替がそのまま正式な交替となります。

頭部損傷時における一時的交替は、このトライアルが成功した後、2015年8月、成人エリートレベルラグビーの競技規則として正式に採用されました。「HIAプロトコル」は、頭部損傷時の一時的交替と脳震盪管理に関連した競技規則第3条11項とワールドラグビー 規則第10条を支援するためのものです。

「HIAプロトコル」はガバナンス制度が支援し、最高水準の医療管理をプレーヤーに提供できるようにしています。オフフィールドで行うスクリーニングツールの一部を含めた脳震盪の疑いのあるプレーヤーを評価するHIAプロトコルは、科学論文のレビュー、意見表明報告の考察、スポーツ医学専門医、コーチ、プレーヤー、レフェリーとの協議を行った後にまとめられました。「HIAプロトコル」は継続的なレビュー、またワールドラグビーへの助言を行う第三者専門家によるワーキンググループの助言によって改正される場合があります。

b) 調査目的

「HIAリサーチプロジェクト」の総合目的は、「HIAプロトコル」の有効性を継続的に評価し、脳震盪の発見と症状管理において改善できる領域を特定することです。このリサーチプログラムに基づいて収集したデータは次のような目的で使用されます:

  • 正常プレーヤー別の正常値と異常値、傷害後HIAスコアの境界を定めるための規範的な基準値を定義する;
  • HIAのスコアに影響を与える可能性のある影響因子(例、複数の基準値テストを受けることで一般化効果が生じる、脳震盪受傷後の基準値スコアに及ぼす影響、運動を行った後の安静時に行った基準値評価と比較)について調査する;
  • 脳震盪を発見する上でのHIA評価プロセスの診断の精度を調査する;
  • 脳震盪を発見する上でのHIAのサブモードの診断上の精度を評価する;
  • 現在の HIAプロトコルと新たに進化しているテストモード、および/またはテクノロジーの正確度を比較する;

「HIAリサーチプロジェクト」の総合的効果は、「HIAプロトコル」が成人エリートレベルラグビーでの脳震盪の発見と症状管理のベストプラクティスを保証することによって、プレーヤーの安全を強化していくことです。

c) 必要性と範囲の評価

「HIAプロトコル」の実施で収集するデータを処理することは、脳震盪のリスクについて理解し、症状管理を改善するために必要です。脳震盪のリスクについて理解すること、また管理の方法を改善することはプレーヤーウェルフェアを促進させ強化するために重要なことです。

HIAリサーチプログラムは、「HIAプロトコル」が有効であること、また今後も引き続きプレーヤーの安全を改善するための総合的目的を達成することができるかどうかを確認するために不可欠です。頭部損傷の発生と原因について、またHIA評価の結果についての詳しいデータを大量に収集することなく同じ結果を生むことはほぼ不可能です。

「HIAデータ」にアクセスできるのは、センシティブデータの取り扱いに慣れているワールドラグビーの専門調査部、ステレンボッシュ大学、スポーツ&エクササイズ医学研究所だけです。ワールドラグビー・研究倫理委員会が承認した通り、「HIAデータ」を使用する権限は、あくまでもプレーヤーウェルフェアが目的であり、それ以外の目的でデータを使用する見込みはありません。

HIA調査プログラムのために収集されたデータの精度と完全性は、関係医師や医療従事者が紙および/または電子版の「HIAフォーム」を使って集めた情報の精度と質にある程度左右されます。「HIAフォーム」が正しく記載され、オンラインのプラットフォームを通じて提出したデータが正確なものであるかどうかを確認するのは担当医師の責務となります。「HIAプロトコル」を使用する条件として、大会運営者は、必ず「HIAプロトコル」が正しく実施され、データが適切かつ正確に収集されるよう、HIAレビューのプロセスを導入しなければなりません。

「HIAデータ」は、アイルランドのダブリンに所在するAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のサーバーに保存されています。ニュージーランドに所在する第三者の技術支援従事者は、ワールドラグビーに報告する、分析サービスを提供する、またメインテナンスと開発を行う目的でデータにアクセスします。HIAデータをEEA域外、またはニュージーランド以外の国に移転することができるよう(例えばこれらの国以外で大会が開催される場合など)、ワールドラグビーはそのようなデータ移転が行われる場合のために適切な安全措置を講じています。

「HIAリサーチプログラム」で使用した「HIAデータ」からプレーヤーが特定される可能性を低くするため、プレーヤーの名前は使用せず、匿名化した参照番号を使用します。「HIAプロトコル」の様々な段階で収集したデータを同じ事故および/またはプレーヤーに結びつけるため、またデータの正確性をレビューするため、該当する試合映像と相互参照し、特定の損傷の原因および/または発生状況についてより理解を深めるためにプレーヤーを特定できる可能性があるその他の情報(所属チーム、試合日など)を保存することは必要であり妥当です。

ワールドラグビーは、「HIAリサーチプロジェクト」でデータが収集される可能性のあるプレーヤーに対し、プレーヤーの情報がリサーチ関連で使用されることを通知し、そのことについて理解してもらえるよう様々な措置を講じています。これらの措置には次のようなものが含まれます:

  • ワールドラグビーは、「HIAプロトコル」に関する文書および付録資料に記載した重要な情報を網羅した脳震盪教育モジュールの開発・普及に努めており、また、脳震盪管理、イミディエート・ケア・イン・ラグビー、マッチ・デー・メディカルスタッフ向け医療プロトコルの資格基準を設定しています。「HIAプロトコル」使用の承認を受けた大会や試合に参加するプレーヤーは、これらの教育モジュールを受講しなければなりません。
  • ワールドラグビー が運営・統括する大会に関しては、それらの大会に参加するすべてのプレーヤーが署名する「大会参加合意書」の中に、プレーヤーの「HIAデータ」がリサーチ目的で収集され使用される可能性について説明した通知書も必ず添付しなければなりません;
  • ワールドラグビー以外の組織が運営する大会であっても、「HIAプロトコル」に則った一時的交替の適用をワールドラグビーが承認している場合には、「HIAプロトコルに関する文書(付録3)」に記載されている「HIAプロトコル」および「HIAリサーチプロジェクト」に関する説明をチームのスタッフ全員に提供することを承認の前提条件としています。

「HIAデータ」に関するプレーヤーの権利に関する情報は、ワールドラグビー主催の大会の「大会参加合意書」に添付されている「プレーヤー情報通知」の中にあります。「HIAプロトコル」に関する文書に入っている「リサーチに関する説明書簡」にもプレーヤーの権利に関する説明が明記されています。

2. ワールドラグビー主催の大会における損傷・疾病監視

a) 背景

スポーツには残念ながら損傷や疾病がつきものです。損傷や疾病のリスクを許容範囲に抑えることはプレーヤーの健康を守る上で重要な点となります。特定の集団における損傷や疾病の傾向とそれらがもたらす影響について研究することは、リスク管理において極めて重要なことであり、以下のような重要な問題を解決する助けとなります:

  • 発生率または重篤度の観点から最もよく見られる損傷または疾患のタイプは?
  • 経年的に、全体的または特定の種類の損傷または疾病の発生率または重症度に変化があったか?
  • どのような要因が損傷または疾患のリスクを高めるか?
  • 特定の予防策を講じることで損傷・疾病の発生率または重症度を軽減できたか?

損傷や疾病に関する疫学的研究の結果は、最も予防策を講じるべきタイプの損傷・疾病を特定する、損傷・疾病の予防要因または損傷・疾病を負いやすくする要因を見つける、また予防措置の有効性を測定するための足がかりとなります。

ワールドラグビーは、ワールドラグビーが主催するすべての主要大会において必ず損傷・疾病監視調査(ISS)を実施することにしています。すべての(ISS)は、ワールドラグビーが承認したInternational Consensus Statementの「surveillance studies in Rugby [1](ラグビーにおける損傷監視調査)」の定義と手続きの項で説明しています。ISSの結果はワールドラグビーの関係当事者に報告され、World Rugby Player Welfare webpage で一般公開されます。

b) 調査目的

損傷・疾病監視プログラムの総合目的は、ワールドラグビー主催の大会全般で発生するプレーヤーの損傷と疾病の特徴について調査することです。リサーチプログラムの実行段階で収集したデータの使途には次のようなものがあります:

  • 発生率の高い損傷・疾病、または受傷後・発症後からプレーに復帰するまでの失われた時間が最も長い、重症度が最も高い損傷・疾病を識別する;
  • 一定期間における損傷または疾病の傾向(例:HSBCセブンズ・ワールドシリーズ全体での傾向);
  • 損傷・疾病からプレーヤーを守る要因、または損傷・疾病のリスクを高める要因を突き止める;
  • 予防措置の有効性を評価する(例:規則で許可されるタックルの高さを低くする規則の変更の導入)

損傷・疾病監視プログラムで目指している総合的影響は、プレーヤーの安全を強化することであり、またプレーヤーにもたらされる損傷や疾病リスクを許容レベルに維持することです。

c) 必要性と範囲の評価

ISSで収集したデータを処理することは、損傷リスクを管理する上で、またプレーヤーウェルフェアの改善に関わる全般的な意味で必要です。

損傷・疾病のリスクは時とともに様々な要因によって変化することから、常にプレーヤーの安全を改善・強化する余地があります。ISSプログラムは、損傷リスク管理に関する積極的な取り組みをモニタリング、評価することによって、プレーヤーウェルフェアを継続的に改善するというワールドラグビー の目標を達成するために不可欠なプログラムです。

プレーヤーの安全を向上させるために、ワールドラグビーがエビデンスに基づいたプレーヤーウェルフェアへの主導的取り組みおよび/または競技規則その他の規則の変更を行うためには、ラグビーが抱える課題をまず損傷発生率と重度の観点から理解しなければなりません。このことを裏付けるように、ラグビー全般での脳震盪の発見・症状管理の向上を目指すワールドラグビーの取り組みは、脳震盪を負った後もそのままプレーを続けていたプレーヤーの割合が多かったことを指摘したISSの結果を受けたものでした。さらに、ラグビー全般における頭部損傷に的を絞った予防措置の有効性を測り知る上でISSの結果は極めて重要です。

ワールドラグビーはスポーツ統括団体の中でも、損傷リスク管理においてスポーツ界の主導的存在であり、ワールドラグビーのISSは損傷分析のベストプラクティスをスポーツ界全体に推進するための取り組みの一つであり、その手助けとなるものです。

「データ」にアクセスできるのはワールドラグビー内の専門研究部だけであり、このようなセンシティブなリサーチ用データの取り扱いに慣れている者だけに限定されます。このデータの使用権限は倫理委員会が承認し、プレーヤーウェルフェアを目的とした使用のみに限定されています。ISSデータセットのすべてにアクセスできる第三者機関のISSコンサルタントは、ワールドラグビーが、ISSに従って収集されたデータをその他の機能または目的で使用しないことを確認します。

ワールドラグビーとDovetailのスタッフは、それぞれのISSデータセット全てにアクセスできますが、その目的はあくまでも事務処理および業務支援に限られ、適切なアクセスコントロール措置を講じ、それを遵守しなくてはなりません。

ワールドラグビーがそれぞれのISSプロジェクトに従って収集するデータの質は、担当医や各チームのメディックスタッフが収集した情報の精度と質に左右されます。情報が正しく記入され、ワールドラグビーに提出するデータが正確であることを確認するのは担当医またメディックスタッフの責務です。一方ISSプロジェクトを実行するISSコンサルタントは、ワールドラグビーが大会に参加するそれぞれのチームに積極的にフォローアップを行い、正しくデータ入力ができるように働きかける責務を持っています。

「ISSプログラム」で使用するISSデータからプレーヤーが特定される可能性を低くするため、プレーヤーの名前は使用せず、匿名化したプレーヤー参照番号を使用します。ただし、プレーヤーを特定できる情報(所属チーム、ポジションなど)を保存することは、損傷リスク要因を解明する上で必要となります。

ワールドラグビーは、ISSプロジェクトにおいてデータ収集の対象となりうるプレーヤーが、このリサーチに関連して使用するプレーヤーデータについての通知を受け、理解できるよう様々な措置を講じています。これらの措置には次のようなものが含まれます:

  • ワールドラグビーが運営、管理する大会については、参加するプレーヤーが全員署名する「ワールドラグビー大会参加合意書」に添付されている通知に、ISSデータがプレーヤーウェルフェアに関するリサーチの目的で収集・使用されることが明記されています;
  • すべてのワールドラグビー関連大会においてISSを実施することは、それぞれの大会で締結する「大会参加条件」に規定されている条件であり、プレーヤーが署名する「大会参加条件」にもISSの必要条件が規定されています。プレーヤーは「大会参加条件」に署名しなければなりませんが、このリサーチからの除外を希望する機会も与えられます。自分のデータがこのリサーチに包含されることをそのプレーヤーが了解した場合に限り、ISS プロジェクトにそのプレーヤーのデータを包含することができ、プレーヤーの権利およびプレーヤーウェルフェアの観点から適切かつ一貫していると考えます。

ISSデータに関連するプレーヤーの権利に関する情報は「ワールドラグビー大会参加合意書」に添付されている「プレーヤー情報に関する通知」に網羅されています。

データはISSに参加する世界中の「参加協会」から提出され、「参加協会」に公開します。すべてのワールドラグビー加盟協会は、個人情報がEEA域外の国へ移転される場合の安全措置についてワールドラグビーが講じている「データ保護枠組合意書」に署名しています。

[1] Fuller et al., 2007