日本代表は10月26日、横浜の日産スタジアムで行われたリポビタンDチャレンジカップ2024でニュージーランド代表に19-64と完敗。エディー・ジョーンズヘッドコーチは前半20分過ぎにTMO判定を契機に崩れた感情面を問題視。「感情をコントロールしなければ勝てない」と指摘した。

日本のスタートは良かった。立ち上がりからアグレッシブなプレーで相手にプレッシャーをかけた。

開始3分にはWTBジョネ・ナイカブラ、FB矢崎由高、LOサナイラ・ワクァとつないで右サイドでトライチャンスにつながるような突破を仕掛けた。そして勢いを活かして前半5分に先制した。

相手陣内中央のラックを起点に、ラックの脇に顔を出したナイカブラがSH藤原忍からのパスを受けて抜け出し、相手タックルを引き連れながらポスト脇に先制トライを決めた。

ニュージーランドは12分にWTBマーク・テレアが左サイドを突いてトライを奪い、7-7に追いつくと、4分後にはキャプテンのLOパトリック・トゥイプロトゥがラインを超えて14⁻7とリードを奪った。

しかし、日本も相手の速いプレーに怯むことなく、19分にはゴール前のラックから藤原の相手の逆を突くパスを受けたNO8ファウルア・マキシがトライを決めて12-14と迫る。

追い上げムードで勢いを得た日本は22分には相手からボールを奪い、LOワーナー・ディアンズが持ち出してインゴールで押さえた。日本が逆転と思われたが、TMOの判定でノックオンがあったとして得点が取り消しとなった。

この展開に「(選手たちが)気落ちしてしまった」とジョーンズ指揮官。試合前に日本代表の選手たちはオールブラックスを相手に「隙を見せるとやられる」と異口同音に警戒していたが、オールブラックスはこの場面で生じた日本選手の気持ちの隙を見逃さず、TMOによる取り消し後のリスタートから速攻。一気に攻撃を畳みかけてトライを奪った。

前半22分のCTBビリー・プロクターのトライを皮切りに、25分にFLサム・ケイン、31分にFLサミペニ・フィナウ、34分にPRパシリオ・トシ、40分にはHOアサフォ・アウウアが次々と5点を刻んだ。

しかも、そのほとんどがニュージーランドの左アウトサイドへの展開で、日本の右サイドの守備のギャップを突いて得点。敵将のスコット・ロバートソンが「日本のスペースの使い方を把握していた」という分析の成果を発揮して加点した。

ニュージーランドは後半開始早々にもSHキャム・ロイガーがトライ。前半20分過ぎから6連続トライで48-12と一方的な展開とした。

日本はそこから、選手交代を活かして食い下がり、後半28分にはPRオペティ・ヘルがトライをマーク。SO松永拓朗がコンバージョンを成功させ、途中出場で代表デビューを遂げた二人が得点を決めた。

試合終了目前に、途中出場で代表デビューを遂げたWTBルーベン・ラヴに2連続トライを許したが、日本は前半の7トライでの失点比べて後半は3トライに抑える奮闘を見せた。だが、前半の後半の失点が大きすぎた。

守備の乱れについてジョーンズヘッドコーチは、「ラグビーは取り組みの姿勢がすべてという競技」と述べて、技術戦術もメンタルで左右されると指摘。しかも、経験の浅い選手が多い若いチームであるだけに、感情面の克服には時間も必要と説く。

「感情面のコントロールは教えられるものではなく、積み上げていくしかない。試合で一喜一憂しない感情コントロールと成熟を備えたチームになるには3年ほどかかる。それを今日の試合で学んだ。忘れてはならない」

矢崎は「すごく悔しい。前半20分まではすごくいいレベルだったが、トライのキャンセルがあったとから、マインドやエナジーの部分が足りなくなって、それが勝敗に直結したと感じる」と肩を落とした。

代表戦5戦目の20歳のFBは、「いい準備をしてきたが、これだけの差があった。相手は一人ひとりのフィジカルの部分、スピードの部分、どの面においても日本を上回っていた」と振り返り、「個人としてはこの場に立てた経験が一番の収穫。無駄にすることなく、次は勝利できるような準備をこれから積み上げていきたい」と話した。

 

良い時間を増やす

 一方で、ジョーンズ指揮官は前半最初の20分のプレーを、「望んでいたようなスタートだった。これまででも見たことのないもので、ニュージーランドを追い込んだ」と話し、後半についても最後に相手に2トライを許すまでは「大きな決意と努力を持って戦った」と評価した。

また、チーム唯一の大学生プレーヤーのFB矢崎が後半半ばに見せたラインブレークに言及して、「彼はほとんどSOダミアン・マッケンジーを抜きにかかり、本気で走らせた」と述べて目を細めた。「(試合後)矢崎は打ちのめされているが、今日の自分の頑張りを誇るべき。今はアマチュアだが、2027年にはプロになっている」

指揮官の念頭にあるのは、2027年ラグビーワールドカップ時に選手たちとチームがどう成長しているかだ。それゆえ、大敗という結果に「とても残念」としながらも「現状については比較的positiveにとらえている」と前向きだ。

「我々は最初の20分は良かった。あとはその時間をもっと長くして、かつ、相手が予測できないような攻撃を加えることができれば、良いチームになる」

 日本代表チームは、11月は欧州遠征に臨み、11月9日にスタッド・ド・フランスでフランス代表、16日にフランス東部のシャンベリーでウルグアイ代表、24日にトゥイッケナムでイングランド代表と対戦する。

 

NZ主将、TMO直後「判断が良かった」

 ニュージーランド代表はこの日の勝利で日本代表戦の通算対戦記録を8戦全勝とした。

 キャプテンを務めたLOパトリック・トゥイプロトゥは、「スタートで日本からプレッシャーを受けたが、終わらせ方は良かったと思う」と振り返り、スローダウンした後半については「日本がボールを保持することが多くなって守備に回る時間が増えた。ボールを持ってチャンスも作ったが、ノックオンやハンドリングエラーが続いて、ギャップができると日本の速いプレーで突かれた」と話した。

前半半ばのTMOの後のプレーについては、オールブラックス主将は「特にダミアン・マッケンジーとサム・ケインと話をしていた。TMOの後のスクラムでダミアンがリードして、スペースを見つけてアタックした。判断が良かった」と明かした。

チームを率いるスコット・ロバートソンヘッドコーチは、「日本は非常に素晴らしいスタートで、本当に超速というプレーをした」と日本の出足を称賛したが、「我々は遅れをとったが、前半自分たちのやりたいことを実行できたし、後半少しスローダウンしてもしっかり勝利することができた」とコメント。この試合が代表デビューとなったピーター・ラカイとラヴをはじめ、選手たちにプレー機会を与えて新たなコンビネーションをチェックできたことを喜んだ。

ニュージーランドは11月3日にイングランド代表、9日にアイルランド代表、17日にフランス代表、24日にイタリア代表と対戦する。

 

 

日本代表 試合登録メンバー:

1岡部崇人(横浜キヤノンイーグルス)

 →17茂原隆由(静岡ブルーレヴズ)、後半22分

2坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →16原田 衛(東芝ブレイブルーパス東京)、後半6分

3竹内柊平(浦安D-Rocks)

 →18オペティ・ヘル(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、後半6分

4サナイラ・ワクァ(花園近鉄ライナーズ)

 →19エピネリ・ウルイヴァイティ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)、後半5分

5ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)

6ファカタヴァ アマト(リコーブラックラムズ東京)

7姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)

 →20下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)、後半6分

8ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

 →7姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)、後半12分(一時)→後半21分HIA

9藤原 忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

 →21小山大輝(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、後半31分

10立川理道*(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

 →23松永拓朗(東芝ブレイブルーパス東京)、後半15分

11マロ・ツイタマ(静岡ブルーレヴズ)

 →22長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、後半14分

12ニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)

13ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

14ジョネ・ナイカブラ(東芝ブレイブルーパス東京)

15矢崎由高(早稲田大学)

注:* はキャプテン、所属のあとの数字はキャップ数

 

ニュージーランド代表 試合メンバー:

1タマイティ・ウィリアムズ (Crusaders,)

 →17オファ・トゥウンガファシ (Blues)、後半11分

2アサフォ・アウムア (Hurricanes)

 →16ジョージ・ベル (Crusaders)、後半11分

3パシリオ・トシ (Hurricanes)

 →18フレッチャー・ニューウェル (Crusaders)、後半11分

4サム・ダリ― (Blues)

 →19ジョッシュ・ロード (Chiefs)、後半11分

5パトリック・トゥイプロトゥ** (Blues,)

6サミペニ・フィナウ (Chiefs)

7サム・ケイン* (東京サントリーサンゴリアス)

 →20ピーター・ラカイ (Hurricanes)、後半11分

8ウォレス・シティティ (Chiefs)

9キャム・ロイガード (Hurricanes)

 →21 TJ・ペレナラ (リコーブラックラムズ東京)、後半11分

10ダミアン・マッケンジー (Chiefs)

11マーク・テレア (Blues)

12アントン・レイナートブラウン* (Chiefs)

 →22デービッド・ハヴィリ (Crusaders)、後半19分

13ビリー・プロクター (Hurricanes)

14セヴ・リース (Crusaders)

 →23ルーベン・ラヴ (Hurricanes)、後半19分

15スティーヴン・ペロフェタ (Blues)

注:**はキャプテン、*はバイスキャプテン