2019年ラグビーワールドカップ日本大会の成功で、日本ラグビー界には新たな展開が生まれた。男子日本代表はワールドカップで初の8強入りを達成し、国内リーグには優勝した南アフリカやニュージーランド、オーストラリアなどから世界トップの選手が次々と加入してハイクラスのプレーを披露。日本国内のラグビー人気定着へ大きな役割を果たし、今秋開催のワールドカップ・フランス大会へファンの関心を集めている。

 一方、女子は15人制日本代表サクラフィフティーンが2019年から指揮を執るレスリー・マッケンジーヘッドコーチの下で強化。昨年10月のラグビーワールドカップ・ニュージーランド大会は12位で終了も、同大会前のテストマッチではオーストラリアやアイルランドに勝利を収めるなど成果も見え、海外クラブでプレーする選手も出てきた。今年からマッケンジー体制2期目に入り、今秋スタートするWXVと次のワールドカップへ向けたチームづくりが始まっている。

女子7人制日本代表は、2022年ラグビーワールドカップ・セブンズで過去最高の9位を記録。現在参戦中のHSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2023では1大会を残してシリーズ総合9位につけている。今年はパリ・オリンピック予選を勝ち抜き、来年の本大会では東京大会(12位)で達成できなかったメダル獲得を目指す。

15人制も7人制も女子代表チームに上向きの様子がうかがえるが、プレー環境や普及は男子に比べても整っているとは言い難い。

7人制は女子国内シリーズ戦があるものの、15人制は定期的に開催される全国規模の大会はなく、選手が競技性の高い試合を日常的に経験する機会は限られている。15人制代表チームは毎月強化合宿を実施し、遠征機会を得ることで強化を図っている。

状況改善へ向けて、日本ラグビーフットボール協会は4月12日、「女子ラグビー中長期戦略計画」を発表。すでに表明している2050年までのラグビーワールドカップ男子大会の再招致に加えて、女子の大会招致も目指し、世界トップ入りの競技力向上と女子ラグビーの国内環境の整備に乗り出す意向を明らかにした。

日本協会は、ワールドカップ開催地は2027年男子と2029年女子がオーストラリア、2031年男子と2033年女子がアメリカに決まっている。男女のセットで選定された事例が続いている点に着目。この傾向が今後も続き、女子ラグビーが開催地決定を左右する重要な要素になるとみて、女子競技のより一層の強化と普及発展を図ることにした。

なお、ワールドカップの日本招致は、条件が整えば最短で男子は2035年、女子は2037年開催がターゲットとなる。

 女子ラグビーの改革へ、日本協会は今年4月からディレクター・オブ・ウィメンズラグビー(DOWR)を新設。初代DOWRに就任した香川あかね氏は、「ワールドカップ開催地は今後も男女セットで設定される可能性が高い。長期的視点で女子ラグビーの進むべき方向性を定めることになった」と述べた。

 

新たなポスト設置、目標と課題

 「女子ラグビー中長期戦略計画」に掲げられている達成目標には、女子7人制日本代表の2048年オリンピックでの金メダル獲得や、15人制代表で2050年までに世界ランキング3位入りがある。

普及面でも、選手登録数を年率6.5%の拡大で2050年に1万人と設定。海外でプレーする選手数についても現在の5人から2050年には20人、女子クラブ数も75から100へと拡大を目指す。指導者数では現在のスタートコーチ354人を2050年には1062人、A級コーチは現在の7人を21人へ、それぞれ3倍増が目標だ。

ファンの獲得についても、現在1試合あたり平均入場者数4,500人を2050年までに15,000人を動員することをターゲットにした。

 日本協会の資料によれば、2022年3月1日付で選手登録数は男子86,691人に対して女子は5,174人。内訳では11歳以下の選手層が最も多く、2,779人を数え、次いで18歳以上が807人、高校生(15~17歳)が768人、中学生(12~14歳)が751人。チーム数では登録全体の2,718のうち、女子は75で全体の3%弱だ。

 香川氏は中学進学時や大学進学時、あるいは大学卒業後などに競技から離れる選手が多い傾向に言及。競技離脱率の高さの要因として「女子だけで活動できる場が少ない」、余暇として競技を楽しみたい選手の「受け皿が極めて少ない」点を課題に挙げ、現役引退後に指導者やレフリーへ転身して活躍できる環境が整っていないことも競技継続を難しくしていると説明した。

 

各地域担当の設置で活動をサポート

状況改善への取り組みの第一歩として、日本協会では新たに「リージョナル・ディベロップメント・オフィサー」を全国9ブロックに配し、各地域の事情を把握して、それぞれに合った活動をサポートする体制づくりに着手する。そのための人材を、今年度から採用して育成する計画だ。

香川氏はまた、各地域の活動にアカデミーのコーチを派遣してタレント発掘につなげることや、代表引退後の選手に指導者への道をつける「コーチングインターン制度」の導入、国内大会の見直しなどにも言及した。

活動場所の確保のために、リーグワン各クラブと連携することも示唆。香川氏は、「リーグワンとは可能な範囲で連携して、女子チームを作るところがればサポートいただきたい。チームを作るのが難しければ、練習場を貸してもらうなど、話をしながらすすめていきたい」と話す。

新たなファンの獲得については、「コアファンを固めて、コアファンから熱を広げて増やしていくことが効果的」という考えを示した。

また、15人制と7人制の選手強化については、香川氏は「15人制と7人制は同時に行うことで強化できるというのが今の考え方。高校生まで主に7人制を強化して、その後、適性を見て7人制、15人制に振り分ける」とする方針を述べた。

 

ラグビーが身近にある国へ

香川氏によれば、競技を離れる選手の多さや、女子競技単体で収益を上げる難しさ、新規ファンの開拓、海外とのネットワーク不足などの課題は、女子ラグビーに限らず、他の競技も抱えている女子スポーツ界共通の悩みだという。そこで、女子サッカーのWEリーグなどと競技の垣根を越えて女子スポーツとして連携し、協力する体制づくりも検討している。

香川氏はセブンズ日本代表のチームマネージャーを長年務めてきた経験から、「日本の女子選手のラグビーに対するひたむきな姿勢や純粋な思い、果敢に挑戦していく強さはどの国にも負けないと確信している」と語る。

 日本の女子ラグビーは1983年に一部の女子ラグビー愛好家が活動を起こし、日本女子連盟を設立した。その連盟が2002年に日本協会傘下に入る前から、15人制女子ラグビーワールドカップに1991年の第1回大会から出場。昨年のニュージーランド大会まで5大会に出場してきた。

香川氏は、日本の女子ラグビーは2002年までの創世期とその後の開拓期を経て、「これからまさに新しいフェーズに入ろうとしている」と語る。

「日本女子ラグビーの歴史が育んできた貴重な価値を社会に還元しながら、多様な方々とつながりを広げて、ラグビーが身近にある国を目指していく」と話している。