今季のHSBCワールドラグビーセブンズシリーズは10ラウンド中5ラウンドまでが終了。前半戦を終えて日本は総合順位でコアチーム最下位に沈み、自動降格の危機に直面している。

日本は昨年9月に就任したサイモン・エイモーヘッドコーチの下、新たなチームづくりに着手。昨年10月のアジアラグビーセブンズシリーズでの2位を経て11月に香港で開幕した今シリーズに臨んだが、序盤の3ラウンドでは14位や15位タイと苦戦した。

しかし、年が明けて迎えたハミルトンとシドニーでの第4、第5ラウンドでは僅差の試合が増え、ハミルトン大会ではウルグアイに24-19と勝利。翌週のシドニー大会ではフランスに前半17-0とリードしながら逆転を許して17-19で惜敗。その後トンガ、アルゼンチン、ウルグアイにも敗れたが、いずれも1トライ差で前半を終える接戦だった。

キャプテンの林大成選手(JRFU)は、「ハミルトンとシドニーでの結果は15位とそれまでと変わらなかったが、試合の内容はこれまでと違ってきている。ラストのワンプレーまで、勝つ可能性のある勝負ができるようになってきた」と手ごたえを覚えている。

 チームを率いるエイモーヘッドコーチは、「シドニーやハミルトンでは前半はハードに戦えていたが、後半になると動きが落ちた。シドニーでは5試合中4試合で勝つチャンスがあったが、最後に振り切られた。コンディション不足と、試合経験が3~5大会という新しい選手たちに経験を積ませようとしていることもある」と話し、フィットネスと経験の未熟さが敗因と語った。

 課題克服へ、2月上旬の熊谷合宿では1日4部練習を実施。実戦形式の中でフィジカルを追い込みながらハードな練習を重ねた。元イングランド7人制代表のダン・ノートン氏と女子オーストラリア7人制代表で活躍したアリシア・カーク氏もスポットコーチとして特別参加。日本選手たちにアドバイスを送った。

 毎日勉強しているという日本語を駆使して練習中の指示や声掛けを行っているエイモーヘッドコーチは、「試合で瞬時に的確な状況判断と習慣化したプレーを出すために、練習でハードにやっている」と説明。フィットネスの数値は、昨年10月の初合宿時と比較しても大きく改善されていると明かした。

 ロンドン生まれの44歳は、2016年リオデジャネイロ・オリンピックで英国代表を銀メダル獲得に導き、2020-2021年には15人制でもイングランド代表のアタックコーチを務め、2020年のシックスネーションズやオータムネーションズカップ優勝を支えた。選手としても7人制イングランド代表で活躍し、2004年にはワールドラグビーのセブンズ年間最優秀選手賞を獲得した経歴を持つ。国際経験が豊富な指揮官に、東京オリンピックで最下位に終わった日本代表の再建が託された。

 

選手招集の苦労

だが15人制が中心の日本では、7人制代表への選手招集はリーグワンや大学の競技大会のスケジュールとの兼ね合いで、決死で簡単ではない問題だ。

「シーズンに入る前にセブンズ代表の候補選手を集めてテストを繰り返して、同じ顔触れでシリーズに臨むというのが一番だ。中心となる選手が10人ぐらいいて、そこに数人を招集して成長させていくのが理想だ。だが、日本ではそれが難しい」とエイモーヘッドコーチは言う。

「リーグワンでは12月から5月の開催でワールドシリーズと時期が重なる。大学生も8月から1月のシーズンで、我々は選手を思うように招集できないのが実情だ。その中でも、できるだけ良い選手を招集して良いチームを作りたい」

結果的に、シリーズのラウンドごとに選手を入れ替える対応に迫られているが、セブンズ日本代表テクニカルディレクターも務めたエイモーヘッドコーチは、自身が求める条件に合う選手をリーグワンや大学チームの推薦で候補合宿に呼んでチェックし、チームを編成している。その一方で、中長期的な選手育成も考慮して、高校や大学、クラブなど各カテゴリーでの7人制大会を増やして選手の経験不足を補うことも不可欠だと説いている。

「セブンズで勝つには15人制とは異なるフィットネスが必要で、それを構築するには時間が必要だ」とエイモーヘッドコーチ。「もっと走り込んで、できるだけ同じメンバーで固定してやれるようになれば、もっと良くなれる。プレーから学んで改善を繰り返していくことでチームは成長できる」と言う。

指揮官の考えは選手にも伝わっている。

林キャプテンは、「サイモンヘッドコーチは世界の舞台が甘くないことも、追いつけない差でないことも分かっている」と指揮官を信頼。「シドニー大会では、後半になって自分たちの質が落ちた。そこに全員が課題意識を持っている。きつい練習で習慣化したプレーを身に着けて、試合中のきつい状況でも質を落とさずにプレーを出せるようにしたい」と語る。

 

シリーズ残留とオリンピック予選突破へ

日本は今年の最大目標をオリンピック予選突破に置きつつ、ワールドシリーズ残留も目指している。後者をクリアするには、シリーズ後半戦で順位を上げて自動降格圏から脱出しなければならない。

男子のワールドシリーズは来季から現状から4チーム減の12チーム制へ移行する。そのため、各チームの明暗は今季9ラウンドまでの総合順位で分かれる。コアチーム最下位は自動降格が決定し、12~14位は今年4月に行われるチャレンジャーシリーズの勝者とともに、来季コアチーム最後の1枠をかけて、プレーオフとなる第10ラウンドに臨む。一方、シリーズ総合順位の上位4チームにはオリンピック出場権が与えられる。または、各地域の予選でパリ行きの切符獲得を目指すことになる。

オリンピック出場権獲得と残留サバイバルがかかるとあって、今季のシリーズは開幕から激しい展開を見せている。エイモー日本代表ヘッドコーチも、「これまでで一番タフな大会。シリーズ最初の3大会で決勝進出6チームがすべて違うなど、いままでなかったことだ」と話している。

昨季シリーズも経験し、今季ハミルトン大会で負傷から戦列に復帰した石田大河選手(浦安D-Rocks)は、「ワールドクラスの選手たちは相変わらず速いし強いので、ワールドシリーズならではの経験ができる。自分たちはメンバーを固定して臨めていないのは不利な面だが、若手にはチャレンジの機会でもある。日本全体が成長できるチャンスだと思う」と受け止めている。

 

LA大会はフィジー、豪州、ケニアと同組

今季シリーズでコアチーム最下位に沈む日本の勝ち点は現在6。自動降格回避にはプレーオフ圏の14位以内に入らなければならず、11位以内に入れれば自動残留を確定できるが、ボーダーとなる14位のカナダの勝ち点は14、11位のウルグアイの勝ち点は24。日本とは少し開きがあるが、残る4ラウンドで彼らを追い越さなければならない。

 2月25-26日のシリーズ第6ラウンドへ向けて、男子日本チームは2月半ばに渡米。サンディエゴ近郊での練習を経て大会開催地のロサンゼルスに入り、調整を続けている。今回の大会では強敵のフィジー、オーストラリア、ケニアと同組のプールCで戦う。

フィジーは今季開幕ラウンドの香港で準優勝し、シドニー大会では3位に入り今季トップ3を2度経験している。総合順位では5位につけ、オリンピック出場権獲得を射程圏内だ。日本とは今季は香港とシドニーで対戦し、いずれも日本が大差で敗れている。

オーストラリアは開幕の香港大会で優勝。総合順位は8位だが、5位のフィジーとは勝ち点は5差、4位のフランスとは6差。ケニアはコアチーム残留プレーオフ圏の12位で、どちらも上位浮上を狙っているのは言うまでもない。両者とは今季はこれが初の顔合わせとなる。

 シリーズ後半戦へ向けて、石田大河選手は「誰がメンバーに入るか分からないが、チームとして基本のところはできてきている。そこは新しく入ったメンバーに選手同士で伝えあって、チームとしてまとまっていけたらいい」と話す。

 松本純弥選手(浦安D-Rocks)はハミルトンとシドニーに参戦して代表3キャップ目を獲得したばかりだが、2018年のユースオリンピックでは男子7人制ユース日本代表のキャプテンを務めて銅メダルを獲得している。

パリ・オリンピック出場を目指す松本選手は、ワールドシリーズでのプレーに「改めて世界と自分の差を感じた。代表入りを目指すというのではなく、世界で活躍できる選手になると、自分のマインドを変えないといけない」と刺激を受けた様子。「自分は小柄だが、南アフリカにも小柄で活躍している選手はいる。彼らにできるなら、自分にもチャンスがある」と意気込んでいる。

 後半戦へ、男子セブンズ日本代表の戦いはここからだ。