昨年12月17日に始まった今季のリーグワン。海外トップ選手の加入もあり、各チームのレベルアップが指摘されている。そのリーグで試合を司るレフェリーのレベルアップを目指して新たな試みが導入されている。海外トップレフェリーの招聘だ。

1月22日のリーグ第5節の2試合で、2019年ラグビーワールドカップでパネルレフェリーを務めた、オーストラリア協会所属のニック・ベリー氏とアンガス・ガードナー氏の二人が笛を吹いた。

ベリー氏は元選手。スーパーラグビーやラシン・メトロやロンドン・ワスプスなど海外でのプレーをはじめ、2006年にはオーストラリア首相XVのメンバーとして日本代表と対戦した経験もある。現役引退後にレフリーに転じ、スーパーラグビーやテストマッチ、2019年ワールドカップではイングランド対アメリカ戦など4試合を担当した。

ガードナー氏は若いうちからレフェリーに従事してきた。15歳で地元クラブの試合で笛を吹いたのをきっかけにキャリアを重ね、2011年以降はテストマッチやスーパーラグビーを担当。2015年ワールドカップではアシスタントレフェリーに選出され、2018年にはワールドラグビーのレフェリー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、2019年ワールドカップでは日本代表とアイルランド代表の試合をはじめとする3試合を担当した。38歳の二人は世界の第一線を行く存在だ。

ベリー氏は、東京でブレイブルーパス東京とトヨタヴェルブリッツの試合、ガードナー氏が神奈川で相模原ダイナボアーズと静岡ブルーレヴズ戦を、それぞれ日本人のタッチジャッジとチームを組んで担当した。

ベリー氏が担当した秩父宮での試合は63-25でブレイブルーパスに軍配が上がったが、反則数はブレイブルーパスが8(PK7、FK1)、ヴェルブリッツが8(PK8)と少なく、TMOの介入場面もなく、終始スムーズに流れた。

試合後、ブレイブルーパスSH小川高廣選手は、ペナルティの少なさに「自分たちが意識したこともあるが、今日のレフェリーは一貫性があってわかりやすかった。アドバンテージも流してゲームが止まらなかったので、きつい展開だったが見ていてもやっていても楽しめる試合になったと思う」と振り返った。

同僚でこの日はNO8でプレーした日本代表のリーチマイケル選手も、「レフェリーがいたのかわからないぐらい。ブレークダウン周りがやりやすく、試合の流れがよかった。反則も納得のいく説明をしてくれた」と称賛した。

ペリー氏自身は試合後、「楽しんでできた。レフェリーとして異なるスタイルのラグビーを経験できるのはこの上ない楽しみ。日本のラグビースタイルはポジティブで、スタイルやスピードは思った通りだった。ボール保持を活かしてパスを回すラグビーを好むので、時には端から端まで走らないとならない場面もあったが、僕も好きなスタイルだから楽しめた。将来的にまた日本に来て笛を吹けたらと思っている」と好感触を示した。

ベリー氏は、「日本のラグビーはこの10年で大きな進化を遂げている。キックやキャッチなど基本スキルはとても良いから、これからはスクラムやラインアウトなどセットプレーを伸ばしていく段階だろう。実際、それで日本代表は進歩を遂げている」と指摘した。

 元選手のペリー氏は、「日本は、ひと昔前は眠れる巨人だった。だが今ではもう眠ってなどいない。発展は時間の問題だ。オーストラリアと対戦するかもしれないから、アドバイスはあまりできないが、日本がスーパーラグビーに復帰すればさらに進歩を遂げる足掛かりになるに違いない」と語った。

 

RWCに日本人レフェリーを

リーグワンでは12月17-18日の開幕節にもニュージーランド協会所属のレフェリー3人を招聘。ベン・オキーフ氏が埼玉ワイルドナイツ対ブレイブルーパス東京、マイク・フレイザー氏がブラックラムズ東京対相模原ダイナボアーズ、アンガス・メイビー氏が東京サンゴリアス対スピアーズ船橋・東京ベイをそれぞれ担当した。

1月の招聘はその第2弾。本来は昨シーズンから実施を望んでいたが、コロナ禍を受けて1年遅れでの実現となった。

実施の背景には、2019年ワールドカップで開催国ながら日本から試合を担当できるレフェリーを送り出すことができなかった苦い事実がある。

日本ラグビー協会ハイパフォーマンス部門の岸川剛之部門長は、「2019年ワールドカップで、日本開催で日本のレフェリーがピッチに立つことができなかった。これが一番大きな課題」と述べて、「大会で笛を吹いた二人と日本のレフェリーは何が違うのか。交流することで日本のレフェリーが学ぶことができる」と説明した。

日本協会でレフェリーコンサルタントを務めるポール・ホニス氏も、日本人レフェリーには「(招聘レフェリーの)試合での洞察や試合への準備やレビューの仕方などフィールドの内外で1つ1つを学んでほしい。二人は高いレベルの試合を見せてくれるが、(日本人レフェリーに)超えられない高いレベルのものではないだろう」と期待を示している。

今回、ベリーとガードナーの両氏は1月20日から3日間の滞在で、試合で笛を吹いた以外にも、準備や試合のレビューの仕方など自身の経験を日本人の同僚に伝えるセッションにも臨んだ。

ガードナー氏は、「僕らもほかのレフェリーから多くを学んできた。多くの人と仕事をするほど学ぶことは多くなる。経験や知識を共有して、日本人レフェリーにとって多くの学びになれば」と語った。

今回、ベリー氏の秩父宮での試合でタッチジャッジを務めた久保修平レフェリーは、「タッチラインで一緒にやることで、彼がどういうゲームマネジメントをしているか、肌で感じられる、とても貴重な機会になった。どういう準備をして、試合後はどう振り返っているのか。フィールド上とフィールド外で両方学べた。それを今後自分のパフォーマンスとして出せればと思う」と話した。

日本でプロとして活動しているレフェリーは久保氏を含めてまだ3人。選手としてのプレーとレフェリングの二足の草鞋を履いていた滑川剛人レフェリーが昨季で選手を引退し、今年からレフェリー業に専念しているが、多くのレフェリーは他に仕事を持ちながら週末の試合に携わっている。

ブレイブルーパスのトッド・ブラックアダーヘッドコーチは海外レフェリー招聘について、「若いレフェリーの成長を助ける場があるのは良いことだ。自分たちも外部からコーチを呼んで学んでいる。レフェリーも同じようにできるといいと思う」と歓迎した。

日本協会では2027年、2030年のワールドカップに日本人レフェリーを送り出すことを目標に、今後も海外からトップレフェリー招聘を続ける意向を持っている。

実現にはリーグと同時期に行われるシックスネーションズなど世界のマッチカレンダーを睨みながらの調整が必要で、ベリー氏とガードナー氏も2月4日に開幕するシックスネーションズで数試合に携わることが決まっており、日本を経て欧州へ向かった。

海外からの招聘を継続する一方で、日本協会ではレフェリング技術の向上のために、日本人レフェリーがオーストラリアやニュージーランドなど海外で活動する機会を設けることも模索している。

久保レフェリーは「単発ではなくて、長いスパンでやれたら」と新たな試みを歓迎。「今回は彼らに来てもらったが、僕らも外に行って、2ウェイでできたらいい。次の世代のことを考えると、そういう機会は重要だと思う」と話した。

試みは始まったばかり。今後の調整も簡単ではなさそうだが、リーグワンは世界トップリーグになることを目標に掲げている。選手とチームだけでなく、試合を支えるレフェリングでもトップを目指す試みが継続すれば、日本人レフェリーとリーグ、日本ラグビーのレベルアップにつながるに違いない。