来年のラグビーワールドカップへ世界ランキング4位のニュージーランド代表を相手に、同10位の日本代表が好ゲームを展開。国立競技場改修後の最多動員となった65,188人の観衆を沸かせた。

 試合後、日本代表のHO坂手淳史キャプテンは「自分たちが目指すラグビー、やっていかなくてはならないラグビーは少し見せられたかと思う」と話し、元キャプテンのFLリーチマイケル選手も「ニュージーランドと点差が縮まっているのはいいこと」と手ごたえを口にした。

 試合は日本にとってはビハインドからのスタートだった。

 前半11分に神戸でもプレーしたニュージーランド代表LOブロディ・レタリック選手、26分にCTBブレイドン・エノー選手が連続トライ。さらに32分にはWTBセヴ・リース選手がラインアウトのプレーから抜け出して5点を加え、SOリッチー・モウンガ選手のコンバージョンも決まって、21-3と大きくリードを許した。

 しかし、日本はここから反撃。37分に自陣22メートルエリアでのターンオーバーからキックを使って攻め、敵陣22メートル付近でキャッチしたボールの処理にもたつく相手にプレッシャーをかけ、山沢選手がインゴールへ蹴り出して自らドリブルでフォロー。インゴールで押さえてトライを決めた。

 スクラムやブレークダウンでも遜色のないプレーで相手としっかり競り合った日本は、前半終了直前にCTBディラン・ライリー選手が左サイドを抜け出して敵陣深くに入ると、相手のタックルを受けながら流大選手にパス。2019年日本大会でも活躍したスクラムハーフは、そのままインゴールに飛び込んで5点を加えた。SO山沢拓也選手がこのコンバージョンも成功させて、日本が17-21で前半を折り返した。

 しかし後半開始早々、ニュージーランドのWTBケイレブ・クラーク選手にトライを許して17-28と点差を広げられるが、後半16分にLOワーナー・ディアンズ選手が長身を生かしてキックチャージ。そのまま駆け抜けてトライを返し、後半途中出場のSO李承信選手がコンバージョンを決めて日本が再び4点差に詰めた。

 さらに攻撃を畳み掛けたいところだったが、その5分後にゴール前のラックからNO8ホスキンス・ソトゥトゥ選手にトライを決められる。

 ニュージーランドはさらにその5分後にLOレタリック選手に危険なプレーがあったとしてレッドカードが出される。

 だが、後半途中からこの試合で代表キャップ数を112に伸ばしたSHアーロン・スミス選手をはじめ、LOパトリック・トゥイプロトゥ選手や負傷から復帰したCTBアントン・レイナート=ブラウン選手ら経験豊富な選手をベンチから送り出し、14人でも数的不利を感じさせないプレーを見せた。

 逆転したい日本は攻撃を続け、後半39分にはFL姫野和樹選手のトライが決まり、李選手がこの日2本目のコンバージョンも決めて31-35と点差を縮めた。

さらに80分が過ぎてもボールを保持して攻め続けたが、ニュージーランドのプレッシャーに自陣で反則を取られて最後にPGを与えてしまい、逆転には届かなかった。

 

姫野選手、「勝てた試合」

ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、「最初から最後まで自分たちがやりたいことを意図的にできた。オールブラックスにしっかりプレッシャーをかけて自信を得て、そこからトライを奪うこともできた。最初からその自信を失わずに戦えたことはよかった」と評価した。

日本は最近の数試合で見られたような終盤崩れることもなく、最後まで良くファイトしたが、反則数ではニュージーランドの6(前半2、後半4)に対して、日本は12(前半4、後半8)を数え、最後の最後にペナルティから相手に3点を追加された。

ジョセフヘッドコーチは、「勝てるチームになってきているが、残念ながら十分でない部分があって届かなかった」として、ノックオンなどの細かなミスや、まずいタイミングでのペナルティに言及した。

「ティア1チームを相手に間違ったタイミングで1つ2つでもミスをすれば、勝てるチャンスも逃してしまう。もっと良くしていかなければならない」と、選手たちにプレーのレベルアップを求めた。

リーチ選手も、勝利に届かなかった要因に「大事なところでのミス」を挙げて、「このレベルでミスをすれば失点につながる」と述べた。

それでも、日本はニュージーランドとは1987年ラグビーワールドカップでの初顔合わせから前回2018年の31-69まで、1995年ワールドカップでは17-145と歴史的な失点を献上するなどの大敗が続いていたが、今回の7点差は過去最少点差だった。

 リーチ選手は、「満足はしていないが、ニュージーランドとの点差が縮まったことはよかった」と語り、「ディフェンスもアタックもいい部分はあったし、セットプレーも安定した。チームとしてかなり良い方向に向かっていると思う」と語る。

 ここから日本代表は欧州遠征へ出かけ、11月12日にトゥイッケナムでイングランド代表、20日にトゥールーズでフランス代表と対戦する。

 リーチ選手は「オーストラリアA代表と3試合して、オールブラックスと今日こういう試合ができた。チームとして自信に溢れている。ここから全勝したい」と話す。

 攻守に好プレーを披露した姫野選手は、「勝てた試合。全員が悔しいという思いを持っている」と残念がり、今季残り2試合へ「今日の負けを自分たちのものにして、残り2試合での勝利に貪欲に向かいたい」と前を向いた。

坂手選手は「ディフェンスもアタックも切れなかった」と指摘。最近の試合で見られた、1つのトライをきっかけに一気に相手に点差を詰められる傾向も修正され、「みんながつながり続ける守備は日本の強さ。そこは見せられた。次につながる」と収穫を口にした。

 

NZケイン主将、勝因に「落ち着きとハードワーク」

 11月に欧州でウェールズ、スコットランド、イングランドとの対戦を控えるニュージーランドにとっては、9月のアルゼンチン代表戦、その後のオーストラリア代表との2連戦に続いての勝利で4連勝となった。

 ニュージーランド代表NO8サム・ケイン主将は「厳しい試合だった。日本はスキルもあり、タフな相手だとわかっていたが、試合を通してプレッシャーをかけられて、特にラインアウトやブレークダウンではミスを誘うようなプレーをしてきたので、最後の瞬間までファイトしなければならなかった」と振り返り、「どんな状況でも落ち着いて戦い続け、ハードワークできたことはチームとして誇れる」と話した。

 チームを率いるイアン・フォスターヘッドコーチは、「我々は前の試合からしばらく期間が空いた後の最初の試合で、少し動きが良くないところがあったし、日本にプレッシャーをかけられて接戦にされた。日本は強いコミットメントをもったハードワークで素晴らしいプレーをした」と語った。

 かつてオールブラックスに歴史的な大敗をした日本の昔と今の違いについて訊かれると、ニュージーランド代表指揮官は、選手の体のつくりやコンディショニング技術の発展に加えて、自信の違いを指摘した。

「80分通してプレーする力も驚くほど変わってきているし、成長するときにはどこかの試合で自信をつけて精神面が変わる瞬間がある。日本は(2015年ワールドカップで)南アフリカに勝ったことで自信がついた。そこから多くの自信を得てパフォーマンスが改善され、今日のような素晴らしい試合につながっている」と述べた。

 来週からの欧州遠征へ向けては、フォスターヘッドコーチは「今日の試合で若手や新しい選手がいい経験をできた。チームにはよい足がかりになった」とフォスターヘッドコーチ。「だが改善点はいくつかある。前の試合から5週間と時間が空いているのでタイミングで良くないところがあった。セットプレー、ラインアウト、守備で相手のプレーを読むことも改善したい」と話した。

 

 

 

日本代表 ニュージーランド代表戦試合メンバー:

1 稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →17 クレイグ・ミラー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、後半8分

2 坂手淳史*(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

3 具 智元(コベルコ神戸スティーラーズ)

 →18 竹内柊平(浦安D-Rocks)、後半32分

4 ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)

5 ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

6 リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)

 →19 下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)、後半22分

7姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)

8 テビタ・タタフ(東京サントリーサンゴリアス)

 →20 ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、後半9分

9 流 大(東京サントリーサンゴリアス)

 →21 齊藤直人(東京サントリーサンゴリアス)、後半22分

10 山沢拓也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →22 李 承信(コベルコ神戸スティーラーズ)、後半9分

11 シオサイア・フィフィタ(花園近鉄ライナーズ)

 →23 ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、後半17分

12 中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)

13 ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

14 松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)

15 山中良平(コベルコ神戸スティーラーズ)

リザーブ:

16 日野剛志(静岡ブルーレヴズ)

注: * 印はキャプテン

 

ニュージーランド代表 試合メンバー:

1 ジョージ・バウアー(クルセイダーズ)

 →17 オファ・トゥウンガファン(ブルーズ)、後半15分

2 デーン・コールズ(ハリケーンズ)

 →16 サミソニ・タウケイアフォ(チーフス)、後半15分

3 ネポ・ラウララ(ブルーズ)

 →18 ティレル・ロマックス(ハリケーンズ)、後半15分

4 ブロディ・レタリック(チーフス) RC後半26分

5 トゥポウ・ヴァアイ(チーフス)

6 シャノン・フリゼル(ハイランダーズ)

 →19 パトリック・トゥイプロトゥ(ブルーズ)、後半23分

7 サム・ケイン*(チーフス)

8 ホスキンス・ソトゥトゥ(ブルーズ)

 →20 ダルトン・パパリィ(ブルーズ)、後半27分

9 フィンレー・クリスティ(ブルーズ)

 →21 アーロン・スミス(ハイランダーズ)、後半22分

10 リッチー・モウンガ(クルセイダーズ)

11 ケイレブ・クラーク(ブルーズ)

12 ロジャー・トゥイザサ=シェック(ブルーズ)

 →22 デービッド・ハヴィリ(クルセイダーズ)、後半30分

13 ブレイドン・エノー(クルセイダーズ)

 →23 アントン・レイナート=ブラウン(チーフス)、後半22分

14 セブ・リース(クルセイダーズ)

15 スティーブン・ペロフェタ(ブルーズ)

注:* 印はキャプテン