2023年9月8日のパリ大会開幕まで1年を切って、2019年日本大会で8強入りした日本代表のチーム強化もさらに力が入る。秋のテストシリーズとして10月29日に東京の国立競技場でニュージーランド代表と対戦し、その後は欧州へ出向いて11月12日にトゥイッケナムでイングランド代表、20日にはフランス大会で日本代表が拠点とするトゥールーズでフランス代表と対戦する。

 だがそこへ向けて、10月1日の東京・秩父宮での対戦からオーストラリアA代表と3週連続で場所を変えながら顏を合わせる。

 オーストラリアA代表キャプテンを務めるライアン・ロネガン選手(ブランビーズ)も「同じ相手と3連戦はめったにない」という異例の取り組みだが、日本代表にとっては重要な意味がある。

日本が初の8強入りを達成した2019年日本大会前には、日本代表候補選手のスキルを磨き経験を積む実戦機会としてサンウルブズでのスーパーラグビー参戦という場があった。だが、その機会がなくなって迎える2023年大会へ、オーストラリアA代表との連戦は同様の意義を持つ。元日本代表キャプテンのFLリーチマイケル選手(東芝ブレイブルーパス東京)は、「テストマッチと同じ気持ちで臨む」と話し、チームは日本代表メンバーがジャパンXVというチーム名で対戦している。

 

初戦は黒星スタート

その初戦となった10月1日の第1戦で、ジャパンXVはオーストラリアA代表に22-34で敗れて黒星発進となった。

この日のオーストラリアA代表の先発にはFW陣を中心に、PRトム・ロバートソン選手(ウェスタン・フォース)やFLネッド・ハニガン選手(ワラタース)ら代表キャップホルダーが8人。ジャパンXVに先行を許したが後半反撃。13-22で迎えた後半18分と21分に連続トライを奪い、逆転に成功した。

決定打となった2トライは自分たちの守備の綻びを突く形で、まず後半途中出場のブラッド・ウィルキン選手が決めて、その3分後に後半出場のマーク・ナワンガニタワセ選手(ワラタース)が5点を加えて25-22と逆転。ナワンガニタワセ選手は終盤にも1トライを追加して、オーストラリアA代表の勝利に貢献した。

ジャパンXVは後半15分過ぎまでは9点差リードを奪う展開だっただけに、簡単に与えた2連続トライが痛かった。

キャプテンのHO坂手淳史選手(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、「ペナルティとミスの多さ」を敗因に挙げ、それによって「自分たちが前に出ていく勢いを消してしまった」と嘆いた。

前半はフィジカル面でも相手に負けない強さを見せていただけに、試合の重要な局面でハンドリングのミスや反則で、結果的に相手に付け入る隙を与える形が見られた。また、後半は良い形で5分、15分とトライを奪って先行しながら、その直後の後半8分と18分にトライを許すという甘さもでた。

ジャパンXVを率いたジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、「夏の試合から久しぶりに臨んだ最初の試合で、チームが機能するには時間がかかるもの」と選手の状況に一定の理解を示したが、「一貫性のあるプレーをしなければならない。後半リードしながら簡単に2本トライを許した」と指摘し、プレーの波をなくすことをチームに求めた。

 

ニューフェイスとRWC2019選手の復帰

だが日本にとっては、この試合では収穫も少なくなかった。

代表ノンキャップのSO中尾隼太選手(東芝ブレイブルーパス東京)とFL下川甲嗣選手(東京サントリーサンゴリアス)の2人をはじめ、CTB中野将伍選手(東京サントリーサンゴリアス)が好プレーを披露し、ベテランFB山中亮平選手(コベルコ神戸スティーラーズ)やNO8に入ったリーチ選手も奮闘。前半早々に負傷したLOサナイラ・ワクァ選手に代わって入ったLOワーナー・ディアンズ選手(東芝ブレイブルーパス東京)も緊急登板ながらすぐにチームにフィット。攻守に貢献した。

中尾選手は代表戦初先発で、開始2分の先制PGを含めて前半で3本すべてのPGを決めてジャパンの前半9-6リードでの折り返しに貢献した。

その後、後半5分にWTBシオサイア・フィフィタ選手(花園近鉄ライナーズ)が両チーム通じて初のトライをマーク。さらに17-13リードで迎えた後半15分には、中野選手が相手を引き付けて出した絶妙なパスを受けたWTB松島幸太朗選手(東京サントリーサンゴリアス)が右隅に飛び込んで、19,729人でほぼ満員のスタジアムを歓喜に沸かせた。

松島選手はこの2シーズン活躍したフランスリーグで春に肩を負傷した影響で、今夏のテストシリーズを見送っていたが、復調を感じさせる鋭い走りを披露した。

同じく負傷で夏シリーズには不在だったFL姫野和樹選手(トヨタヴェルブリッツ)とSH流大選手(東京サントリーサンゴリアス)も後半途中から出場し、安定したパフォーマンスを披露した。また、山中選手は選手交代に伴って試合中のシフトチェンジでSOを務める新たな一面も見せた。

2019年日本大会で8強入りに貢献した経験のある面々がチームに戻って来たことは、ノンキャップ2人を含めて代表キャップ数一桁の選手が半数を超える今回の秋シリーズのスコッドで、力強い存在となることは言うまでもない。

 

強度の高い試合経験

「新しい選手が強度の高いテストマッチを体感できたことがよかった」とジョセフヘッドコーチは述べて、「新しい選手には最初のゲームは難しいもので、それが多くの観衆の前となるとなおさらだが、前半は(中尾選手も下川選手も)二人ともよくやった」と評価。負傷していた選手たちの復帰とともに、強化テーマの一つとしている選手層の拡充にまた一歩進んだことを歓迎した。

 中尾選手も、「高いレベルのなかでプレーできて、すごく楽しかった。早くこのレベルに慣れていきたい」と話して、周囲とのコミュニケーションを改善してプレーのレベルアップを図りたいと話した。

 リーチ選手も、チームとしての修正点を認めつつ、全般的には夏以降初の強化試合でのパフォーマンスをポジティブに受け止めた。

 元日本代表キャプテンは、「タックルミスとボールを継続できなかったことが負けの要因」としたが、「力負けや戦術負けではなかった。80分通していかにゲームマネジメントして勝つかが大事。最終的には負けたがジャパンとしてはたくさん色を出せた。継続すればトライは獲れる。今日のいいところをどこまで継続できるかが大事になる」と振り返った。

 オーストラリアA代表第1戦で好感触を掴んだ様子のリーチ選手は、結果以上に「成長できるか」をこの期間のポイントに挙げ、「次の2試合に勝ってオールブラックスと対戦したい」と話している。

9月上旬から大分・別府で合宿を行ってきた日本代表が、現時点でのチーム力をチェックするにはニュージーランド代表は最高の対戦相手であるのは間違いない。そこまで、コンディションを上げてくるオーストラリアA代表との2試合で、日本はどこまで自分たちのプレーを充実させることができるか。

オーストラリアA代表との第2戦は10月8日(土)に福岡のベスト電器スタジアムにて、第3戦は10月14日(金)に大阪のヨドコウ桜スタジアムにて開催される。

 

 

2022秋シリーズ日本代表メンバー

FW

PR-稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ、42キャップ)、垣永進之介(東京サントリーサンゴリアス、11)、木津悠輔(トヨタヴェルブリッツ、5)、クレイグ・ミラー(埼玉パナソニックワイルドナイツ、6)、具 智元(コベルコ神戸スティーラーズ、18)、竹内柊平(浦安D-Rocks、1)、三浦昌悟(トヨタヴェルブリッツ、9)、海士広大(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、1)

HO-坂手淳史*(埼玉パナソニックワイルドナイツ、30)、日野剛志(静岡ブルーレヴズ、5)、堀越康介(東京サントリーサンゴリアス、5)

LO-ヴィンピー・ファンデルヴァルト(浦安D-Rocks、20)、大戸裕矢(静岡ブルーレヴズ、5)、小瀧尚弘(コベルコ神戸スティーラーズ、11)、ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ、9)、ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京、4)

FL-下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス、0)、ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、13)、古川聖人(トヨタヴェルブリッツ、3)、リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京、75)

NO8-テビタ・タタフ(東京サントリーサンゴリアス、12)、姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ、22)、ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、4)

BK

SH-茂野海人(トヨタヴェルブリッツ、16)、齋藤直人(東京サントリーサンゴリアス、8)、流大(東京サントリーサンゴリアス、27)

SO-中尾隼太(東芝ブレイブルーパス東京、0)、山沢拓也(埼玉パナソニックワイルドナイツ、4)、李承信(コベルコ神戸スティーラーズ、3)

CTB-梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス、2)、シェーン・ゲイツ(浦安D-Rocks、4)、中野将伍(東京サントリーサンゴリアス、5)、中村亮土(東京サントリーサンゴリアス、30)、ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ、7)

WTB-ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、3)、シオサイア・フィフィタ(花園近鉄ライナーズ、9)、根塚洸雅(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、1)、松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス、44)

FB-野口竜司(埼玉パナソニックワイルドナイツ、14)、メイン 平(リコーブラックラムズ東京、1)、山中亮平(コベルコ神戸スティーラーズ、24)

注:* 印はキャプテン 所属の後の数字はキャップ数