来年のラグビーワールドカップへ向けてチーム強化を図る日本代表にとって、今春のシックスネーションズを全勝制覇で世界ランク2位につけるフランス代表との対戦は、現在地を測る絶好の機会。その対戦で日本代表は24,570人の観衆を前に、前半は一時リードを奪うなど好ゲームを見せた。

日本は前半開始からフランスのプレッシャーを受けて自陣に押し込まれ、前半3分にスクラムからWTBダミアン・ペノー選手にトライを許して7点ビハンドとなったが、その3分後に前日のメンバー変更で先発が決まったSO李承信選手がPGを決めて3点を返した。

さらに、14分には連続攻撃からNO8テビタ・タタフ選手がパワフルな突破でゴール下に持ち込んで逆転。李選手のコンバージョンも成功して10-7とリードを奪った。その後は互いにPGで加点して、前半を13-13で折り返した。

だが、後半は状況が一変。フランスは、6月中旬まで続いた国内リーグの影響で主力数名が不在で、若手主体の編成ながらもチームとしてのクオリティの高さを示す。ハーフタイムに前半のプレーの修正を図ると、後半開始直後のWTBマティス・ルベル選手のトライを皮切りに、後半28分までに4トライを奪う攻撃を披露して日本を圧倒した。

 日本は相手のプレッシャーに炎天下の暑さの中でのプレーでの疲労も加わってか、後半に入るとミスや反則が増え、思うような展開には持ち込めなかった。それでも反撃を試み続け、試合終了間際にWTBシオサイア・フィフィタ選手がトライを奪い、李選手がコンバージョンを成功させて、23-42で試合を終えた。

 ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、「タフでフィジカルな試合で、前半を13-13で折り返したのはよかったが、後半はミスが増えた」と指摘した。

指揮官は前半の日本のポゼッション60%などの数字を示して、「自分たちがモメンタムを持ってプレッシャーをかけることができるのは分かったが、これを30分、35分だけでなく、80分間続けなければならない。それをしっかり理解して次の試合へ臨みたい」と話した。

 

李選手、初先発で健闘

 プラス材料もあった。先週6月25日のウルグアイ代表第2戦に途中出場で代表デビューをしたばかりの李選手が、緊急初先発ながらフル出場で奮闘した。

 今回の代表チームにはSO松田力也選手やNO8姫野和樹選手ら主力が負傷で不在。加えて、この一週間で新型コロナウィルス陽性者が出て、この日の第1戦に先発予定だったSO山沢拓也選手も試合前日に陽性判定。そこでリザーブから先発へ昇格となったのが李選手だった。

 「正直、驚きはあった」という兵庫県出身の21歳SOは、「緊張はしないタイプだが、試合前は足が地につかない感じがした。ボールに触った瞬間に吹っ切れた」という。

キックではPGは4本中3本を決め、コンバージョン2本も成功させた。中でも前半25分のPGはハーフウェイラインから少し中に入った地点からのロングショット。これを決めて日本は13-10とリードを奪った。

 李選手は試合後、「長短のパス、プレースキックは手ごたえがある」と話したが、後半崩れた試合展開に、「(後半は)フランスが上げてきたというより、自分たちのミスから流れを持っていかれた。10番としてチームを勝たせるためのゲームコトントロールや自分の役割が、まだまだできていない。自分のミスで流れを持っていかれるところがたくさんあった」と反省の言葉が続いた。

 だが、ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、「彼(李)は落ち着いていて、しっかりタックルも決めて、コールを出し、挑戦してプレーしていた。本当にポンテンシャルのある選手だ」と評価した。敵将のファビアン・ガルティエ監督にも、「10番は日本の攻撃を非常にうまく動かしていたし、キックが非常に正確だった」と言わしめた。

 この日の試合では李選手のほかにも、前半トライを決めたテビタ・タタフ選手も存在感を示した。

ジョセフヘッドコーチは、「怪我人や体調不良者がでてしまったが、今いるメンバーはワクワクするような選手がどんどん出てきている。彼らはミスから学んで成長していくことができる。素晴らしい経験をさせることができた」と話した。

 

フランス、後半4トライで圧倒

 フランス代表は、前半の苦戦しながらも後半4トライを奪う攻撃で日本を突き放し、この日の勝利で同国のテストマッチ新記録となる9連勝をマークした。

 「勝利が重要だったので、勝ててうれしい」とフランス代表のFLシャルル・オリボン主将。「前半は日本の当たりの強さに少し驚いたところもあって苦戦した。後半に入って速い時間に得点できて気持ちが楽になった」と振り返った。

 13-13で折り返した後半開始5分、22メートル付近でのラインアウトからモールで押し込み、そこからボールを動かしてSOマチュー・ジャリベール選手が日本の守備のギャップを突いて抜け、パスを受けたWTBマティス・ルベル選手が右隅にトライを決めた。

 そこからフランスは攻撃を加速。その4分後にも、最終的にはTMOでファウルがあったとしてノートライになったものの、SHマキシム・ルク選手がゴールに持ち込む場面を作った。

 PGで3点を加えて23-13とリードを広げたのち、後半18分には速いパスをつないでWTBダミアン・ペノー選手、21分にはCTBヨラム・モエファナ選手、28分には途中出場のHOピエール・ブルガリ選手がそれぞれ5点ずつ決めて、42-16と日本を突き放した。

 後半の猛攻の口火を切るトライを決めたルベル選手は、「日本のパスを多用したプレーは予想していたが、前半は対応が難しかった。だが後半はディフェンスを修正して、選手とボールを動かすようにした。それがうまくいったと思う」と明かした。

 フランス代表のファビアン・ガルティエ監督は、「我々は経験の少ない選手が多いなか、前半は日本のスピードがありインテンシティの高い試合に対して、FWのぶつかり合いを含めて遅れを取って苦戦したが、後半になって攻守で最初の一歩が出るようになったのがよかった」と、選手の後半の対応を評価した。

 自国開催となる2023年ラグビーワールドカップで優勝の呼び声も高いフランスは、昨年11月のアルゼンチン代表戦から白星を続け、シックスネーションズ全勝優勝を遂げた3月のイングランド代表戦で歴代最高タイとなる8連勝を記録。今回の日本戦勝利で記録を塗り替えた。

この連勝記録についてフランス代表指揮官は、「9連勝の功績はコーチ陣と共に作り上げてきたもの。コーチ陣のハードワークを称えたい」と満足そうな表情を浮かべた。

 9日に東京の国立競技場で行われる日本代表との第2戦で、記録更新となるか。

 ガルティエ監督は、「すべての部分をさらにより良くして、勝利を目指したい」と語り、オリボン主将も「良い形で日本ツアーを終えたい」と言った。

 

 

日本代表第1戦試合メンバー

1稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →17森川由起乙(東京サントリーサンゴリアス)、後半10分

2坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →16橋本大吾(東芝ブレイブルーパス東京)、後半29分

3ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

 →18垣永真之介(東京サントリーサンゴリアス)、後半29分

4ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモレッドハリケーンズ大阪)

 →19ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)、後半19分

5ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

6リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)

7ベン・ガンター(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

8テビタ・タタフ(東京サントリーサンゴリアス)

 →20ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、後半10分

9茂野海人(トヨタヴェルブリッツ)

 →21中嶋大希(コベルコ神戸スティーラーズ)、後半10分

10李 承信(コベルコ神戸スティーラーズ)

11シオサイア・フィフィタ(花園近鉄ライナーズ)

12中野将伍(東京サントリーサンゴリアス)

 →22シェーン・ゲイツ(NTTシャイニングアークス東京ベイ浦安)、後半23分

13ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

14ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

 →23髙橋汰地(トヨタヴェルブリッツ)、後半10分

15山中亮平(コベルコ神戸スティーラーズ)

注:* はキャプテン

 

フランス代表第1戦試合メンバー

1ジャン・バティスト・グロ(RC Toulon)

 →17ダニー・プリソ (Stade Rochelais)、後半5分

2ペアト・マウバカ(Stade Toulousain)

 →16ピエール・ブルガリ (Stade Rochelais)、後半9分

 →2ペアト・マウバカ(Stade Toulousain)、後半33分

3デンバ・バンバ (Lou Rugby)

 →18シピリ・ファラテア (ASM Clermont Auvergne)、後半5分

4ティボー・フラメント(Stade Toulousain)

5トマ・ジョルムス (Union Bordeaux Begles)

 →19トマ・ラヴォー (Stade Rochelai)、後半4分

6ディラン・クレタン (Lou Rugby)

7シャルル・オリボン* (RC Toulon)

8ヨアン・タンガ (Racing 92)

 →20セレバシオ・トロフア (Stade Toulousain)、後半23分

9マキシム・ルク (Union Bordeaux Begles)

 →22バティスト・クイユー (Lou Rugby)、後半19分

10マチュー・ジャリベール (Union Bordeaux Begles)

 →23アントワーヌ・ハストワ (Section Paloise)、後半29分

11マティス・ルベル (Stade Toulousain)

12ヨラム・モエファナ (Union Bordeaux Begles)

13ヴィリミ・ヴァカタワ (Racing 92)

 →21セコウ・マカルー (Stade Francais Paris)、後半23分

14ダミアン・ペノー (ASM Clemont Auvergne)

15メルヴィン・ジャミネ (USA Perpignan)

注: * はキャプテン