ラグビーを通して長い繋がりのあるトンガと日本両国の関係に、新たな1ページが加わった。

 今年1月15日に発生した海底火山の大規模噴火で、噴煙や津波で甚大な被害を受けたトンガの人々の救済と復興支援のために、特別に編成された2チームが対戦。チャリティマッチというエキシビションらしからぬ、ハードな競り合いを展開した。

トンガサムライXVは、2019年ラグビーワールドカップ (RWC) を戦ったPR中島イシレリ選手(神戸スティーラーズ)、SQレメキ・ロマノ・ラヴァ選手(グリーンロケッツ東葛)を含めた日本代表キャップ保持者4人を擁し、キャプテンを務めたFLバツベイ シオネ選手(スピアーズ船橋東京ベイ)ら、リーグワンで活躍する選手で編成。フィジカルの強さやしなやかさのあるプレーを披露した。

対するエマージングブロッサムズは日本代表候補(NDS)による構成。2019 RWCを戦ったSO田村優選手(横浜イーグルス)、CTBラファエレ ティモシー(神戸スティーラーズ)や、2015 RWC代表のCTB立川理道選手(スピアーズ船橋東京ベイ)のほか、WTB根塚洸雅選手(スピアーズ船橋東京ベイ)、WTB竹山晃暉選手(埼玉ワイルドナイツ)、NO8テビタ・タタフ選手(東京サンゴリアス)ら台頭著しい新戦力を擁した。彼ら日本サイドにとっては、代表スコッド入りへ貴重なアピールの機会でもあった。

試合はエマージングブロッサムズが前半8分に先制。左サイドを突破したLOヴィンピー・ファンデルヴァルト選手(レッドハリケーンズ大阪)からパスを受けた田村選手がトライ。コンバージョンも成功させた。

トンガXVは23分にLOエセイ・ハアンガナ選手(埼玉ワイルドナイツ)のトライとWTBラトゥクルーガー選手(相模原ダイナボアーズ)のコンバージョンで同点にしたが、直後に日本チームが突き放す。キックで攻め込み、ゴール目前の攻防でSH茂野海人選手(ヴェルブリッツ)が押さえてトライ。前半終了直前には、ラインアウトを起点にモールで攻め、HO堀越康介選手(東京サンゴリアス)が持ち出して5点を加え、前半を17-7で折り返した。

後半も開始早々にWTB竹山選手がトライをマーク。トンガXVは後半途中出場したシオネ・ハラシリ選手(横浜イーグルス)の25分のトライで12-24と点差を詰めたが、試合終盤に日本チームはNO8タタフ選手が5点を追加し、田村選手がコンバージョンを決めてエマージングブロッサムズが31-12で勝利した。

 

シピタウで感謝と励ましを表現

 試合後のセレモニーでは、トンガサムライXVがトンガ代表のシピタウに自分たち用に特別アレンジを施して、8,055人の観客を前にフィールドで披露。キャプテンのシオネ選手は「1月からずっとトンガをサポートしていただいて、本当に感謝しています」とスピーチ。大きな拍手を浴びた。

シオネ選手によると、特別バージョンのシピタウには「トンガの人々への『みんな、大丈夫』というメッセージと、手を差し伸べてくれている日本への感謝の気持ちを込めた」という。

 トンガXVを率いたラトゥ・ウィリアム志南利監督は、1985年に来日して大東文化大学で大学選手権優勝や、その後加入した埼玉ワイルドナイツ前身の三洋電機で活躍し、日本代表としてもプレー。最初に海を渡って来たノフォムリ・タウモエフォラウ氏とともに日本でプレーするトンガ選手の草分け的存在として、高校や大学、リーグワンなど日本国内の多くのチームでトンガ選手がプレーするようになる基盤を築いてきた。

 「チャリティマッチに多くのみなさんに来ていただいて、嬉しかった」とラトゥ監督。「久しぶりの試合で、集まって練習できたのは3日だけ。前半はミスもあったが、みんな頑張ってよくやってくれた。日本で育った選手がほとんど。日本には感謝している」と話した。

 エマージングブロッサムズのキャプテンを務めた田村選手は、「トンガで被災された方、その家族、ラグビーをしている仲間が苦しんでいるのを見たので、このチームとして日本ラグビーとして大事な一戦と認識していた」と述べた。

 試合については、「プランを遂行して、僕自身もミスはしたが、ズルズル引きずらずにやってきたことを出せた。みんながチームを良くしたいと思ってやっている。それが形に出てうれしい。また来週試合できるので楽しみ」と話した。

 日本代表候補メンバーは、一週間後の6月18日に同じ会場でウルグアイ代表と対戦する。日本がこの夏臨む代表戦4連戦の一つで、ウルグアイ代表とは6月25日にも福岡県ミクニワールドスタジアム北九州で対戦。その後は7月2日に愛知県の豊田スタジアム、9日に東京の国立競技場でフランス代表との2連戦に臨む。

 なお、チャリティマッチが行われた秩父宮ラグビー場では、トンガ北部の海底火山噴火による被災者支援のための募金活動を実施。6月30日まで設置している銀行口座へ振り込まれた募金と試合の収益と合わせて、駐日トンガ王国大使館へ寄付されることになっている。

Photo: ©JRFU