マッケンジーヘッドコーチが女子日本代表を率いて初めて臨んだ2019年夏の遠征でオーストラリアとのテストシリーズに5-34、3-46と敗れてから約3年。今回の遠征最終戦で5月10日にゴールドコーストでオーストラリアと対戦した日本は12-10と勝利を収め、2017年ラグビーワールドカップ・アイルランド大会での初対戦から4度目の顔合わせで初白星を挙げた。

日本は攻守にわたってタフに挑み、積極的なプレーを続けて、世界ランクで5位と日本より7つ上位にランクするワラルーズを前半0-0に抑え込むと、後半に入ってSO大塚朱紗選手(RKUグレース)とFL細川恭子選手(MIE PEARLS)がトライを奪った。その後、反撃を試みる相手に1トライを返されたものの、日本はメンバーが入れ替わっても攻守のハードワークが落ちることなく、23人が安定したプレーレベルと意識の高さを示した。

しかも、今回の遠征では新型コロナウィルス感染症の陽性判定者が出たことで、6日のオーストラリアン・バーバリアンズ戦に続いて、オーストラリア代表戦でも日本は試合登録メンバー提出の48時間を切って試合メンバーの入れ替えを余儀なくされた。そのため、通常とは異なるポジションでプレーした選手も少なくなかったが、不慣れさを感じさせないプレーぶりを披露した。

自身も陽性判定を受けてホテルの部屋で試合中継を見ていたマッケンジー女子日本代表ヘッドコーチは、「ゲームマネジメントという点で素晴らしい試合だった。特にカオスの中で選手が見せた、メンタリティのマネジメントではワールドクラスの物を見せてくれたし、ラグビーの面でもこれから取り組むべきことを多く見せてくれた」と選手のパフォーマンスを評価した。

女子日本代表は昨年11月の欧州遠征では、ウェールズに5-23、スコットランドに12-36、アイルランドに12-15と3連敗。特にスコットランド戦、アイルランド戦は前半でそれぞれ12-10、12-3とリードを奪いながら逆転を許しての黒星だった。

その後、チームは再び合宿を重ねてプレーを強化。今回の遠征では5月1日のフィジー代表戦(28-14)、6日のオーストラリアン・バーバリアンズ戦(24-10)に続くオーストラリア戦の勝利で3連勝とした。

マッケンジーヘッドコーチは、「11月からやってきたことが証明されている。これからも取り組んでいきたい。選手がオーナーシップを取ってやってくれていて、指導者としてこんなに嬉しいことはない」と笑顔を見せた。

さらに女子日本代表指揮官は、オーストラリア戦の勝利で「自分たちができることを信じる気持ちが増えたし、練習での取り組みがスコアラインにインパクトを与えることも示した」というプラス要素に言及した。

その一方で、10月のラグビーワールドカップへ向けては、「なにも変わっていない。若い選手も多いし、やるべきこと、伸ばすべきところは多くある。もっと高いレベルへ上げないとならない」と話し、改めてパフォーマンスの向上に意欲を示していた。

 

松田選手、「RWCでもっといい思いを」

 急なポジション変更でプレーした一人が、フィジー戦で15人制代表デビューしたばかりの松田凛日選手(日本体育大学)だった。

東京生まれの20歳は、オーストラリア戦ではいつものWTBではなくCTBでプレーしたが、「ポジション変更は試合前日に言われたが、日体大で13もやったことがあったので、できないとは思わなかった。役割をしっかり果たそうと思った」と振り返った。

オーストラリアには大柄な体格の良い選手が揃っていたが、身長170㌢体重75㌔のスピードスターは、「自分たちのワークレートで上回らないと相手に勝てないと思ったので、アクションスピードをしっかり上げて行こうと(チームで)話していた。フィジカルでも自信を持って臨めていたので『負けることはない』と強気だった」と語った。

松田選手は7人制代表として昨年夏の東京オリンピックに臨むはずだったが、直前の負傷で離脱を余儀なくされた。その当時は「すごく落ち込んだ」そうだが、故障から復帰後はラグビーを楽しもうと気持ちを切り替えて所属の日体大で「一度やりたいと思っていた」という15人制を始めたところ、マッケンジーヘッドコーチからサクラフィフティーン合宿参加の声がかかった。

松田選手はパリ・オリンピックへの思いもあるとしながらも、15人制でのプレーに「チームで獲るトライと一体感がすごくいい」と新たな喜びを見出している。

そして、今回のオーストラリア戦の勝利で「勝つことがこんなに嬉しいんだと感じた。ラグビーワールドカップという大きな舞台でしっかり結果を残して、もっといい思いを残したい」と10月開幕の世界最高峰の舞台へ思いを膨らせている。

新たなポジションに挑んで頭角を露わしているのは、FL長田いろは選手(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)も同様だ。

マッケンジーヘッドコーチの下、長田選手はCTBから経験のなかったFLへコンバート。同じポジションの細川選手の動きを観察してFLとしての動き方を学んだと明かし、オーストラリア戦では「今までやってきたことを出そうと言っていた。ディフェンスで体を当てて、個人でもタックルやジャッカルで貢献できたかと思う」と手ごたえを口にした。

試合直前の急なメンバー変更についても長田選手は、「グランドだけでなくグラウンド外でもバックスとフォワードで話し合って、コミュニケーションを取っていた」そうで、相手についても分析済みで「みんな、頭に入っていたのでスムーズに動けた」と準備が奏功したと振り返った。

そして、オーストラリア戦で12キャップ目を獲得した23歳は、「3年前に負けた相手から今回の勝ちで他の国にも脅威になると思うし、今回3戦に勝てたことは自信につながる。この嬉しい思いを本番でも感じたい」と語った。

 ニュージーランドでのラグビーワールドカップでは、日本はプールBで10月9日にカナダ、15日にアメリカ、23日にイタリアとの対戦が決まっている。