6勝1敗で首位を走るスピアーズに対して、2勝5敗で上位浮上を狙う静岡が挑んだ一戦に、静岡WTB中井選手は加入3シーズン目で初の先発で出場。ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く母の母国の窮状に、中井選手は左腕に巻いたテーピングに”PRAY FOR PEACE”と手書きして東京の江戸川陸上競技場のピッチに立ち、前半半ばに今季初トライをマークして、チームの後半の猛追につなげた。

 強力なFW陣を武器とするスピアーズに19点差を付けられた前半27分、中井選手はスクラムから出たパスを左サイドで受けてインラインに飛び込んだ。途中出場した昨年3月27日の神戸戦以来のトライだった。

「いつも以上に、当たり前にラグビーができる平和な環境をありがたく感じてプレーした」という中井選手。小中学生の頃にはウクライナを訪れる機会もあり、今もキエフやウクライナ東部などに暮らす親族とは現在電話で連絡を取っているという。

福岡生まれの25歳は、「親戚はおびえながら生活していると思う。連絡が取れている間は少し安心だが、今後は不安。当たり前の日常が戻ってほしいという思いを込めて、メッセージを出せてもらった」と思いを明らかにした。

ラグビーのときはしっかり切り替えているという中井選手だが、現地の状況悪化の報道に不安や心配が尽きない中、福岡に暮らす母親とは毎日電話でやり取りし、平和な日常に感謝して過ごすように励まされているという。

「母が一番つらいと思う。今、自分ができることはラグビーで母や親族を喜ばせること。トライを獲れたことは、僕の母親も喜んでくれたと思う」と語った。

 中井選手は昨季4試合で途中出場して2トライをマーク。この日は2月5日の東芝ブレイブルーパス戦(26-59)での途中出場以来となる今季2試合の出場だったが、後半序盤には50-22キックでラインアウトを獲得するなど、フル出場でリーグ首位のスピアーズ相手に奮闘した。

チームは、前半は相手に4トライを許して7-27でハーフタイムを迎えたが、後半に入ると反撃。SOサム・グリーン選手が1トライ、HO日野剛志選手が2トライを決めるなどで点差を詰め、スピアーズの後半の得点をPG1本に抑えた。だが、あと1歩及ばず、24-30で敗れたものの、6点差に詰めて勝点1を手にした。

静岡の堀川隆延監督は中井選手について、「彼自身の強みをしっかり発揮できていた」と評価し、チームとしても「課題はあるが、大きく成長できたと思う」とプラス面を強調した。

この日の対戦でレギュラーシーズン前半戦を終了し、チームはここまで2勝6敗で12チーム中10位。開幕から3試合がチーム内に新型コロナ感染者が出た影響で中止され、3不戦敗と出遅れたが、静岡LO大戸裕矢キャプテンは、「6点差で勝ち切れないところにチームの伸びしろがある」と前を向いている。

 

ワールドラグビーがロシアとベラルーシに制裁

ワールドラグビーは2月28日にロシアとベラルーシに対する制裁と、ロシアのウクライナ侵攻に強い非難を理事会で再確認したとするリリースを発表している。

制裁は、ロシアとベラルーシの代表チームおよびクラブの国際活動の停止と、ロシア協会のワールドラグビー加盟停止とするもので、いずれの処分も完全かつ即時に発効され、追って通達があるまで継続される。

ラグビーファミリーを守り紛争に対して強い姿勢を取るために国際オリンピック委員会の推奨に沿って決定したものであり、連帯やインテグリティ、尊敬というラグビーの価値観を念頭に行われた。

ワールドラグビーはまた、ウクライナ協会と連絡を取り合っており、同国のラグビーコミュニティーへの全面的な支援を誓っている。