2003年から昨年まで続いたトップリーグから様変わりして、新たに始まるリーグワン。ここ数年、2019年ラグビーワールドカップ日本開催を契機に、世界トップレベルの外国人選手が日本でプレーするケースが増えているが、新たに始まるリーグワンでも数多くの代表クラスの選手が日本のファンを楽しませてくれそうだ。

 大型補強で目を引くチームの一つがトヨタヴェルブリッツ。2019年ワールドカップを制した南アフリカ代表LOピーターステフ・デュトイ選手、ニュージーランド代表LOパトリック・トゥイプロトゥ選手を新たに獲得し、昨季ハイランダーズでスーパーラグビーに挑戦した日本代表FL/NO8姫野和樹選手が復帰した。

 デュトイ選手はU-20代表でも2012年世界ジュニア選手権で優勝し、2013年にはカーディフでのウェールズ戦でスプリングボクスにデビュー。その後は代表での実績を積み、今日までに58キャップを獲得した。2019年ワールドカップ日本大会では5試合に出場し、イングランドとの決勝を32-12で制して南アフリカの世界タイトル獲得に貢献し、同年のワールドラグビー年間最優秀選手賞も受賞した。

 シャークス、ストーマーズとスーパーラグビーで活躍してきたケープタウン出身の29歳には今回、日本の新たな舞台での活躍が期待されている。

 「また日本に戻れてうれしい」というデュトイ選手は、日本のファンに「ランニングラグビーを見てもらいたい」と話す。

 「日本のラグビーはスピードがあり、スキルもある。南アフリカのラグビーはスピードよりもフィジカルが強いので、日本でスピードやランニングラグビーを学べることは、僕自身、とても楽しみにしている点だ」と語る。

ヴェルブリッツで同僚となるトゥイプロトゥ選手も、「来日は自分にとって新しいチャレンジ。コーチ陣や選手にタレントが揃っていて、楽しみにしていた。日本にはランニングの良さがある。そこは楽しみな部分だ」と声を揃え、新天地での展開に期待を示した。

 

レベルアップへの期待

トップリーグ最終シーズンに優勝した埼玉パナソニックワイルドナイツはオーストラリア代表WTBマリカ・コロインベテ選手、東京サントリーサンゴリアスはニュージーランド代表FB/SOダミアン・マッケンジー選手、横浜キヤノンイーグルスはウェールズ代表LOコリー・ヒル選手、リコーブラックラムズ東京は元スコットランド代表FL/NO8ブレア・カーワン選手を加えた。

NECグリーンロケッツ東葛はディレクター・オブ・ラグビーに元オーストラリア代表監督のマイケル・チェイカ氏を迎えて体制強化を進め、2019年ワールドカップでも活躍した日本代表SH田中史朗選手やウェールズ代表LOジェイク・ボール選手を獲得した。

田中選手のように国内移籍もさらに活発になり、日本代表PR具智元選手はリーグワンでの活躍の場をホンダヒートから神戸スティーラーズに移した。

 一方、2019年ワールドカップで日本代表として活躍し、その後現役を退いていたLOトンプソンルーク選手は、リーグワン開幕を前に引退撤回を発表するサプライズで、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に加入。2015年トップリーグでプレー経験もあるオーストラリア代表WTBイズラエル・フォラウ選手らとともに、新たなチームで新リーグでのプレーに臨む。

復帰組では、かつてシャイニングアークスでプレーした南アフリカ代表SOエルトン・ヤンチース選手もその一人。今回はNTTドコモレッドハリケーンズ大阪で日本のファンにプレーを披露する。

各チームが初代王者の座を目指して、国際経験豊富な選手を加えて戦力の充実を図っている。新たな戦力は魅力的だが、コベルコ神戸スティーラーズで2季目を迎えるニュージーランド代表SOアーロン・クルーデン選手ら、以前から日本でプレーする外国籍選手らには、よりチームと日本にフィットしたパフォーマンスが期待されている。

チームによってはコロナ禍による入国制限の影響で、外国籍選手のチーム合流が開幕に間に合わないケースもあるようで、選手層の厚さや総合力が試されることになりそうだが、リーグ全体のレベルアップを期待する声は少なくない。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの日本代表FLピーター・ラブスカフニ選手は、「外国人選手だけでなく、才能ある日本人選手も多くいて、どのチームもとても良いレベルになっている。高いレベルでの競争になると思うので、自分にとってもチームにとっても成長できる良い機会だ」と新たな展開へ目を向ける。

 「高いレベルのプレーをしたい」と意気込む東芝ブレイブルーパス東京FLのリーチマイケル選手は、ファンの存在の重要性を指摘する。「ファンありきで、選手との距離感をどれだけ近づけられるかが大事。日本ラグビーにとってすごく楽しみなリーグになる」と言う。

これには、元スコットランド代表主将でシャイニングアークスでのシーズン2年目を迎えるSHクレイグ・レイドロー選手も声を揃える。

「ラグビーの良さはファンとの距離感の近さ。選手としてはファンに楽しんでもらえることが一番」と話し、「初代王者を目指して準備している。競争の激しいリーグになるので一戦一戦が重要になる。集中して臨みたい」と語った。

 

試合数が増加、海外チームとの対戦も視野

 リーグワンでは、各チームが1シーズンにこなす試合数が旧トップリーグに加えて増えるため、ファンが選手の活躍を楽しむ機会が増える。

リーグワンでは全24チームが3つのディヴィジョンに振り分けられてシーズンを戦うが、ディヴィジョン1(D1)では12チームが2つのカンファレンス(A, B)に分かれ、各カンファレンス内での2回戦総当たりと異なるカンファレンスとの1回戦総当たりを実施。レギュラーシーズン終了時に上位4チームがプレーオフトーナメントで優勝を争う。なお、下位4チームはリーグ戦の成績で順位が決まる。

このため、D1では各チームがレギュラーシーズンに最低でも16試合を戦う。上位に入ってプレーオフトーナメントに進出すれば、さらに2試合が加わり18試合となる。昨季のトップリーグでは16チームが2つのカンファレンスで1回戦総当たりを行い、その後のプレーオフトで順位を決定していたが、優勝した埼玉ワイルドナイツでも試合数は11だった。

リーグワンのディヴィジョン2(D2)とディヴィジョン3(D3)でも試合数が増加。それぞれ6チームによる2回戦総当たり方式でレギュラーシーズンを戦い、その後、順位決定戦に移行するため、1チーム12試合を行う。

5月下旬には各ディヴィジョン間での入れ替え戦もあり、D1下位3チームとD2上位3チーム、D2下位3チームとD3上位3チームが2戦ずつ行って、昇格降格を決める。

なお、今季のレギュラーシーズンはD1が1月7日の開幕から5月8日まで。D2は1月9日から4月10日、D3は1月15日から5月8日まで。その後、プレーオフなどが行われる。

 厳しく、クオリティの高い試合が増えれば、日本代表選手や代表候補選手の強化になることは言うまでもない。特に、サンウルブズで参戦したスーパーラグビーの機会がなくなった現状では、次の2023年ラグビーワールドカップまで2年となって、リーグワンの存在は大きい。将来的にはD1上位チームがポストシーズンに海外チームと対戦できるクロスボーダーマッチの構想も盛り込まれ、実施へ向けた調整が進められている。

 日本代表でコベルコ神戸スティーラーズFB山中亮平選手は、「高いレベルでやることが重要。それが日本代表につながる」と語っている。

 

地域との結びつき

リーグワンに所属するチームは、トップリーグやトップリーグチャレンジに出場してきた顔ぶれだが、旧リーグとは異なる側面もある。

チーム名にそれぞれが活動する地域名が加わり、ホームスタジアムや活動エリアも明確化された。これにより、地元コミュニティとのつながりを意識した取り組みが増え、地域に根差したチームになることが期待されている。

現状では多くのチームが地域名とともに企業名も残しているなか、ヤマハ発動機ジュビロは地元で愛されるチームになるためにチーム名を刷新。静岡ブルーレヴズと名称を変えた。

埼玉パナソニックワイルドナイツは、2019年ラグビーワールドカップの試合開催地でもあった熊谷に本拠地を移転して、熊谷スポーツ文化公園の一角に新たなクラブハウスと練習場を設置。公園を散歩中の人が練習を眺められる機会を提供している。

日本代表でワイルドナイツHO坂手淳史選手は、「公園の中にあるので、散歩している人や、たくさんの人に見てもらえると刺激になる。初めてラグビーを見る人もいるかもしれない。そこで好きになってくれたら」と話している。

また、リーグワンでは、ホスト&ビジターという、いわゆるホーム&アウェイ方式での試合開催形式を導入。これまで日本ラグビー協会が行っていた試合運営を、それぞれのチームで行い、収益を得る形に切り替えた。チームのフィールド上のパフォーマンスはもちろん、フィールド外での事業力が求められる。

東京サンゴリアスの田中澄憲GMは、チケット収入につながる集客作業とは無縁だった旧体制からの転換に、「稼ぐというマインドは今までなかった。そこを変えないとならない」と指摘。チームが掲げる初年度のチケット収入の目標額達成へ、ホスト試合での70%の集客がボーダーラインになるという考えを示している。

 新たな仕組みを導入して姿を変えたリーグワンは、より多くのファンを惹きつけ、国内だけでなく世界でもトップレベルのリーグになることを目指している。

ジャパンラグビー リーグワンの玉塚元一理事長は、「一人でも多くのファンにスタジアムに来てほしい。2019年ラグビーワールドカップで、多くのファンが『ラグビーは結構おもしろい』と感じたポテンシャルを広げていきたい」と語る。

開幕戦は1月7日(金)、東京の国立競技場で行われるクボタスピアーズ船橋・東京ベイと、トップリーグ最後のシーズンの覇者である埼玉パナソニックワイルドナイツとの一戦だ。新たなスタートは、もうすぐだ。