• コンタクトトレーニングの負荷に関するベストプラクティスガイドラインは、パフォーマンスの維持・向上とともに損傷リスクの低下を目指す
  • この新たなガイドラインは、フルコンタクトトレーニング(15 分間)、管理下で行うコンタクト(40 分間)、セットピースの実技トレーニング(30 分間)のそれぞれの週あたりの上限を推奨
  • このガイドラインは、約600人に上るエリートレベルの男子・女子プレーヤーからのフィードバックや、主導的なストレングス&コンディショニング専門家や医学専門家、そしてパフォーマンスの専門家の意見など、世界規模での協議に基づいて作成された
  • このガイドラインは、継続的な学習と向上を導くため、またプロフェッショナルラグビー全般における一貫した適用を推進するためのレビュー・研究プログラムに基づく
  • プレーヤーや各国協会、そして国際大会組織がこのガイドラインとフォローアップ研究を歓迎
  • 計測器付きマウスガードを使用しトレーニングや試合の接触を測定、その効果をモニタリングして今後の進展につなげるという試験にレンスター、クレルモン・オーヴェルニュ、そしてベネトン・トレヴィソなどのエリートチームが参加決定

ワールドラグビーと国際ラグビー選手会(IRP)は、損傷のリスクを軽減し、短・長期的なプレーヤーウェルフェアをサポートすることを目的としたコンタクトトレーニングの負荷に関する新たなガイダンスについて発表しました。このガイダンスは、各国の選手会、各国の協会、国際・国内大会組織、またトップコーチやクラブから支持されています。

ワールドラグビーは今年、プレーヤーウェルフェア(選手の身の安全・福祉)においてラグビーを最も進歩的なスポーツとして定着させることを目的とした変革的な6項目計画について発表しました。この新たなベストプラクティスガイドラインは、プロラグビー選手が受けるべきコンタクトトレーニングの強度と頻度に焦点を当て、プレーヤーやコーチだけでなく、医学、コンディショニング、科学の専門家との協議も経て作成されました。

トレーニング中に起こる損傷の発生率は試合中に比べて低いとはいえ、トレーニング量の多さから、1シーズンで起こる損傷件数のうちトレーニング中に発生する割合が比較的高く(35〜40%)、その大半は軟部組織の損傷となっています。トレーニング環境は非常にコントロールしやすいものであるため、プレーヤーのコンディショニングや技術的な準備を十分に行うことができるように、損傷リスクと累積接触負荷を可能な限り低く抑えることを目的として本ガイドラインが作成されました。

世界規模の研究

このガイドラインは、18のエリートレベルの大会に参加する約600名の男女プレーヤーを対象にIRPが実施した世界的調査及び損傷に関する最新データの包括的なレビューに基づき制作しました。この調査の結果、トレーニングパターンは大会によって異なり、フルコンタクトトレーニングは週に平均21分、トータルコンタクト負荷は週に平均118分であることがわかりました。トレーニングに対するより慎重で一貫性のあるアプローチは、特にクラブと国内のトレーニング環境を行き来するプレーヤーが負うコンタクトの負荷を管理するのに役立ちます。今回の研究では、プレーヤーがパフォーマンスを発揮するための準備をしつつ、同時に損傷リスクの上昇を避けるために、トレーニングにおけるコンタクトによる負荷を最小限に抑えることが重要であることが裏づけられました。このガイドラインは、そのバランスをとることを目的としています。

新たな「ベストプラクティス」トレーニングコンタクトガイドライン

ワールドラグビーと国際ラグビー選手会が設定したこの新たな枠組み [https://www.world.rugby/the-game/player-welfare/medical/contact-load]では、トレーニングセッションにおける明確かつ許容すべきコンタクトに関するガイドラインを定めており、シーズン中の損傷リスクを減らし、試合に向けた準備を最適化するためのベストプラクティスをコーチやプレーヤーに伝えることを目的としています。このガイドラインは、コンタクトトレーニングの種類をすべて網羅しており、コンタクトの量、強度、頻度、予測可能性を考慮しています。また、欠かすことのできない回復・休養期間など、通常のトレーニング週におけるセッションの最適な組み合わせについても考慮しています。

プロレベルのラグビーにおけるコンタクトトレーニングの上限は次のように推奨されています:

  1. フルコンタクトトレーニング:週あたり最大15分、月曜から金曜までの間で最大2日。回復と準備のため、フルコンタクトトレーニングを全く行わない日を設ける
  2. 管理下で行うコンタクトトレーニング:週あたり最大40分。いかなるタイプのコンタクトも行わないコンタクトトレーニングゼロの日を少なくとも1日設ける
  3. セットピースの実践トレーニング:週あたり最大30分のセットピーストレーニングを推奨

このガイドラインでは、プレーヤーの年齢や発達状況、また損傷データなどを踏まえた全体的な負荷の軽減も考慮しており(2019年に発表されたリスク要因と負荷に関するガイダンスに準ずる)、男子・女子ラグビーワールドカップのプレーヤーウェルフェア基準に取り入れられます。

計測器付きマウスガード研究プログラムで効果を測る

ワールドラグビーはエリートチームと提携し、これらのガイドラインの「現実世界」での効果(トレーニングや試合での効果)を測定し、市場をリードするプリベントバイオメティクス社の装置付きマウスガード技術とビデオ分析を使用して、頭部衝撃事象のメカニズム、発生率、強度を評価し、ガイドライン実施状況のモニタリングと結果の測定を行っています。

この技術は、画期的なオタゴラグビー頭部衝撃検出研究でも採用されたもので、男子・女子のエリートラグビー、コミュニティーラグビー、年齢別ラグビーの各レベルで1,000人以上の参加者を対象に、ラグビーにおける頭部衝撃に関する最大規模の比較可能データを提供します。現在のところ、チャンピオンズカップを何度も制覇しているレンスターと、フランスの強豪クレルモン・オーヴェルニュ、ベネトン・トレヴィーゾの3チームが参加を表明しており、他にも様々な大会のチームと協議を進めています。

ワールドラグビーの最高責任者、アラン・ギルピンは次のように述べています。「この重要な取り組みは、ゲームにおけるすべてのレベルでプレーヤーウェルフェアを向上させるという私たちの野心を反映しています。専門家によって立案されたこのガイドラインは、ラグビー、パフォーマンス、医学の分野で最高の知識を持つ人々によって作成され、ラグビーにおけるコンタクトトレーニングに関する最大規模の研究に基づいています。私たちは、シーズン中のコンタクトを含め、トレーニング全体の負荷を個々に調整することで、損傷予防とパフォーマンスの両方を向上させることが可能であり、すなわちプレーヤー、コーチ、ファンにとっても良いことだと考えています。」

ワールドラグビーのラグビー・ハイパフォーマンス担当ディレクターで、元アイルランド代表ヘッドコーチのジョー・シュミットは、「トレーニングは、パフォーマンス面だけでなく、損傷予防という点でも重要な役割を果たすようになってきています。フルコンタクトトレーニングは、多くの人が想像するほどたくさん行われているわけではないのですが、中心となるガイドラインを設けることで、トレーニング中に行われるあらゆるコンタクトについて、プレーヤーやコーチが考慮すべき重要な事項をさらに周知させることができると期待しています」とコメントしています。

「ラグビーの支持のもと第一線で活躍する専門家たちによって作成されたこの新たなガイドラインは、当然、現在進行形のものであり、プレーヤーウェルフェアの点でどのようなポジティブな影響がもたらされたかを理解するためモニタリングを続け、さらに研究を重ねていきます。私たちは、これまでに寄せられた反応に勇気づけられています。」

「コミュニティーレベルのラグビーは、フィットネスレベル、リソース、トレーニング方法などの点でまったく異なるスポーツであることを認識していますが、このガイドラインは、特にトレーニング中に起きるコンタクトの計画、目的、監視などにおいて様々なレベルで適用することができます。」

国際ラグビー選手会の最高責任者、オマール・ハサネイン氏は、このガイドラインはプレーヤーに歓迎されていると述べています。「このプロジェクトは、国際ラグビー選手会の観点においても、コンタクト負荷に関する重要かつ非常に適切な作業であるといえます。私たちは加盟団体と密接に協力して、世界中から約600通の回答を集め、業界の専門家が評価するのに十分なデータを得ることができました。このデータの処理により、過度のコンタクト負荷により発生する損傷からプレーヤーを守るための、かなり具体的な提言がなされました。今後もワールドラグビーと協力しながら、これらの提言の進捗状況を確認し、この分野でのさらなる研究を進めていきます。」

この研究の検討とガイドライン作成の助言に携わったレンスターのスチュアート・ランカスターコーチは次のように述べています。「私たちには、プレーヤー全員ができるだけ安全にゲームを楽しめるようにする責任があります。コーチにとって、トレーニングを最適化するということが、その責任を果たす上で重要な要素となります。プレーヤーが元気よく、損傷も負わず、試合当日を迎えられるようにするためには、その前の1週間でコンタクトによる負荷をかけすぎないようにすることが重要です。このガイドラインはプレーヤーの準備と管理の中心となる分野において、実用的でインパクトのあるアプローチを提供します」

ワールドラグビーはまた、ラグビーにおける傷害リスクと交代要員との関係に関する広範な研究をイングランドのバース大学と共同で行っており、また、コミュニティーラグビーにおける頭部への衝撃の頻度と性質に関する画期的な研究をオタゴラグビー協会、オタゴ大学、ニュージーランドラグビーと共同で行っています。さらには、プロ女子ラグビーに特化した研究も進めています。これらの優先的な活動はすべて、レベルや段階を問わず、全てのプレーヤーのウェルフェアを向上させるためにラグビーが下す決定に反映されます。