2020年開催予定から新型コロナウィルス感染症の世界的流行を受けて1年延期で開催された東京オリンピックで、メダル獲得を目標に挑んだ7人制日本代表チームだったが、男子も女子も望むような結果は残せなかった。

 東京スタジアムで7月26日から28日まで行われた男子競技で、日本は初日に前回大会優勝のフィジーと対戦して19-24と競り負けると、第2戦で英国に0-34。2日目のプール最終戦でカナダに12-36と敗れ、3連敗で9-12位決定戦へまわった。そこでケニアに7-21と敗れ、11-12位決定戦で韓国に31-19で勝利して大会初白星を手にしたが11位で終了。2016年大会の4位から大きく後退した。

 その後7月29日から31日まで行われた女子競技では、日本は初戦でオーストラリアに0-48、第2戦でアメリカに7-17と2連敗。勝利を期した翌日の第3戦でも中国に0-29と敗れた。9-12位決定戦でケニアに17-21と競り負けて白星を逃し、最終日の11-12位決定戦ではブラジルに12-21と負けて、1勝も挙げられずに参加12チーム中最下位で終了。リオ大会での10位から順位を上げることはできなかった。

 男子代表の加納遼大選手は、「どのチームより努力してきたし、いろいろなものを犠牲にしてきただけに、結果が出なくて悔しい」とコメント。女子代表でプレーした堤ほの花選手は、「世界との差を感じる大会となった」と振り返った。同僚の弘津悠選手も「1勝もすることができず、悔しい結果となったが、これが現実。3年後のパリ五輪への出発点だと思って責任を持って頑張る」と話した。

コロナ禍の影響

 日本ラグビー協会で男女7人制日本代表チームの強化責任者を務める本城和彦ナショナルチームディレクターは、大会を総括してコロナ禍による大会の1年延期の影響に言及した。

2016年のリオ大会以降、男子はセブンズ専任選手制を導入し、男女ともに代表チームの活動日数も増やした。HSBCワールドラグビーセブンズシリーズへの参加など国際大会参加を強化の舞台として東京オリンピックへの準備を進めていたが、コロナ禍で大会は軒並み中止に。国内での活動も制限の多い中でのものとなり、実戦の機会も限られ、自ずと強化計画の変更を迫られた。

本城ディレクターは、「本場に向けてベストなコンディションを作れなかった。予定されていた昇格大会やワールドシリーズを経て五輪に臨んでいたら、結果も少し違うものになっていたかと思う」と話した。

 その上で男子については、初戦のフィジーと2戦目の英国に勝利できなかったことが敗因と指摘。「フィジー戦は最後に勝利を作る流れを作ったがミスからそれを失った。英国戦のキックオフはコンテストに競り勝ちながらもそのボールを手にすることができなかった。日本チームのナイーブな面ばかりが出て、最後まで修正できなかった」と振り返った。

岩渕HC、「力が足りなかった」

 2018年6月から男子チームを率いた岩渕健輔ヘッドコーチは、コロナ禍の中で感染防止を取りながらの活動を行うことで自らの姿勢が保守的になり、それが試合での采配にも影響したと分析した。

 「男子の実力を考えると、保守的な戦い方や強化の仕方では結果を出せないことは過去の力関係からもはっきりしていたが、はっきりした強化戦略として出すことができなかった。 本番と同じようなプレッシャーをかけるように取り組んできて、選手も努力してくれたが、この1年半で地力をつけるようなゲーム形式の取り組みをするのが非常に難しくなっていった」と岩渕ヘッドコーチは振り返った。

 それでも、初戦重視で臨んだ本番で、「選手スタッフはフィジー戦での勝利を目指して準備をして、いいシナリオで試合を進めてくれた。十分勝てるチャンスがあったし、勝たなければいけない試合だった」(岩渕ヘッドコーチ)というところまでチームは進んだが、「ヘッドコーチとして最終的な試合の決断で積極的にいけなかった。力が足りなかった」と話した。

 一方、女子を率いたハレ・マキリ女子7人制代表ヘッドコーチは大会まで7カ月というタイミングで、前任者の稲田仁氏(マキリ体制でハイパフォーマンスマネージャーを担当)からチームを引き継いで、東京大会に臨んだ。

 マキリヘッドコーチは、「大会まで7カ月という時期にチーム強化を引き受けるのは大変だと分かっていたが、エキサイティングな機会であり、日本と日本の人々のために何かしたいう思いもあった」と振り返り、短期間での強化としてポイントを絞って取り組んだと説明した。

「五輪の舞台で受けるプレッシャーや激しさがトップレベルになることは分かっていたので、そういう状況下でもポジティブに戦えることを目指して、マインドセット、判断の意思決定、プレッシャー下で自信を持ってプレーできることに取り組んだ。ラグビーは常にイノベーションでなければならない。そのあたりを見せたかったが十分ではなく、結果を残せず、みなさんの期待に応えることができなかった。残念に思っている」と話した。

新たな体制でパリ五輪へ

 今回の大会で現体制は終了。本城ディレクター、岩渕ヘッドコーチ、マキリヘッドコーチは退任となり、後任は後日発表されるが、新体制で今回の経験を活かすことが2024年大会での成功へ重要なポイントとなる。

 岩渕ヘッドコーチは、「地力をつけるところまでいっていない」としながらも、自身がチームを率いた3年半で「選手のクオリティは確実に上がってきた」とコメント。「東京大会ではリオ五輪を経験した選手たちがいて、五輪を経験したことのない選手たちと一緒になって強化を進めた。五輪での貯金を日本は初めて得ることができて、スタッフも選手を初めてそれを活かすことができた。これは非常に大きな、前向きなところだと思う」と語った。

女子を率いたマキリヘッドコーチは、「ハイパフォーマンスの視点で言えば、アグレッシブなアプローチが必要で、まずスピード、パワー、高さの3つの要素を持った選手を発掘すること。これらの要素は教えることはできない。そういう資質を持った選手を3年後のパリ大会へ向けて見つけて育てることで、強化プログラムを成功させ、よりエキサイングなものにできるだろう」と語った。

競技人口のアップへ

選手の人材発掘が鍵になるが、選手に競技をアピールする機会は国内では限られている。女子は太陽生命シリーズが毎年行われるが、男子は今年9月からHSBCワールドラグビーセブンズシリーズへコアチームとして復帰が決まっているものの、国内で女子のように定期的にプレーを披露する場はない。

 本城ディレクターは、「日常的にセブンズをプレーする環境がない。まず日本でセブンズのプレーを生で見てもらうところがからスタートすることで、セブンズの価値や魅力、ステータスを上げていく。そういう取り組みをしていかないと選手に選んでもらえる存在にはなっていかない」と指摘。HSBCワールドラグビーセブンズシリーズの日本招致や、7人制イベントの開催などのアイデアを示した。

女子については、他競技から7人制ラグビーへの転向に挑戦する選手の発掘も継続しながら、全国でのトライアウトの回数を増やすことなどを示唆。その上で、選手が代表経験を積むことでチームとしての経験値を上げる必要があると語る。

「選手の入れ替わりのサイクルが早い。(今回の)選手たちが残って次に新しい選手が入るという循環にならないと、いつまでたっても経験の少ない選手でメンバーが編成されるという構図が変わっていかない」と本城ディレクターは言う。

日本協会の専務理事も務める岩渕ヘッドコーチは、次の2024年オリンピックへ向けて「男女ともメダルを獲りに行く強化スタンスは変わらないし、より加速させる必要がある。今後の強化については、どこの国もやっていないような先進的な取り組みが必要になると思う。強化でしっかりと考える必要がある」と語った。