新型コロナウィルス感染の世界的流行を受けて長い活動休止を余儀なくされていた日本代表が、2019年ラグビーワールドカップ以来初となる試合でファンの前でのプレーに臨んだ。

 今月26日にエジンバラで開催されるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦と7月3日にダブリンで行うアイルランド代表戦に向けて、チームの強化調整とメンバー選考を兼ねて行われ、日本代表の先発は15人中13人が8強入りした2019年日本大会のメンバーで臨んだが、プレー時間を確保して試合勘を呼び戻すために代表候補選手の一部はサンウルブズとしてプレーした。

サンウルブズは連携もよく、NO8ベン・ガンター選手(パナソニック)やSO山沢拓也選手(パナソニック)ら何人かの選手はインパクトのあるパフォーマンスを披露。前半19分、山沢選手のキックでプレッシャーをかけ、SH荒井康植選手(キヤノン)がインゴールで抑えて先制した。

前半31分にSO田村優選手(キヤノン)のPGで日本代表に7-3と点差を詰められたが、前半終了間際にはWTB尾﨑晟也選手(サントリー)のパスを受けたWTB竹山晃暉選手(パナソニック)がゴールに飛び込んで5点を加え、山沢選手の2本目のコンバージョンも成功して前半を14-3で折り返した。

 先月下旬から別府合宿で調整を続けてきた日本代表だったが、前半はサンウルブズのプレッシャーを受けてミスの多い展開となり、ラインアウトでも苦戦。思うような展開に持ち込めなかった。

 しかし後半に入ると、交代出場したWTBシオサイア・フィフィタ選手(近鉄)やFLジャック・コーネルセン選手(パナソニック)、SH齋藤直人選手(サントリー)らが好プレーを披露。60分にはラインアウトからモールで押し込んでHO堀越康介選手(サントリー)がトライ。その3分後にはCTB中村亮土選手(サントリー)が相手二人の間を突いて5点を加えて15-14と逆転。ベンチスタートしたSO松田力也選手(パナソニック)のコンバージョンも決まって17-14とリードを奪った。

 選手を頻繁に入れ替えて強度と勢いを維持して戦うサンウルブズは、その直後に竹山選手のPGで同点に追いついたが、後半半ばからコンビネーションも良くなった日本代表が得点を重ねて突き放す。

交代出場したNO8テビタ・タタフ選手(サントリー)が後半31分に左サイドを抜け出してトライ。その5分後に松田選手のPG、さらに試合終了直前には堀越がモールで押し込んで、この日2本目のトライをマークして、日本代表が遠征前の唯一の試合を勝利で終えた。

 

テストマッチへ準備

 試合は感染対策として入場者をキャパシティの50%に制限して有観客で開催され、会場には18,434人のファンが駆け付け、大きな拍手で選手のプレーを後押しした。

 2トライを決めた日本代表の堀越選手は「練習した形を出せてよかった」と安堵の表情を見せ、「日本代表のジャージを着てプレーすることは目標だった。ライオンズ戦は世界中が注目する試合。勝って帰って来たい」と話した。

 ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチには、収穫の多い試合だったようだ。

前半の苦戦にも「長い間試合をしていなかったので、雑なところがあるだろうと思っていたし、相手の戦い方が良かった。我々はブレークダウンでプレッシャーを感じてダイレクトに相手のプレーを受けてプレーしてしまったし、相手は頻繁に選手交代を繰り返してフレッシュな選手を入れていた。我々はそういう中でのプレーが必要だったし、テストマッチを想定して望んでいた状況下でプレーすることができた」と語った。

 指揮官はさらに、「我々はテストマッチへ向けて準備をしている。結果を求めているのではない。ティア1でプレーするには、プレッシャーを乗り越えて自分たちのプレーをする必要がある」と指摘した。

 FLリーチ マイケル主将(東芝)は、「相手はサンウルブズらしいラグビーをして、80分通してずっとプレッシャーがかかっていた。自分たちのラグビーをするには、ブレークダウンまわりをしっかりしなければならない。今日いい経験ができたので、これからテストマッチへ準備していきたい」と語った。

 HO坂手淳史選手(パナソニック)は、「後半修正できたのはよかったが、あの試合の入り方ではテストマッチでは取り返せない状況になる。入りから常に100%でやらなければならない」と振り返り、「うまくいかないところがあったが、それを含めていい準備になった」と話した。

 日本代表は16日に欧州へ出発する予定だ。

 

サンウルブズとして個性を発揮

今回のサンウルブズで主将を務めたFLエドワード・カーク選手(キヤノン)は、「自分たちのゲームプランを出せたと思う。80分を終えてみんなが笑顔を見せていて、異なる文化背景のみんなが一つになれた。実にサンウルブズらしいと感じた」と敗れたものの、自分たちの個性を示せたことを喜んでいた。

サンウルブズを率いた大久保直弥ヘッドコーチは、「選手たちが主体的に取り組んでくれた」と選手たちの姿勢を評し、「このクオリティなので、あと10日ぐらいもらえれれば、さらにエキサイティングなラグビーができたと思う」と手ごたえを口にした。

さらに、「サンウルブズが昨年中途半端な形で終わったことを残念に思っていたので、またこうやって仕事ができて、一生忘れられない。若手がこういうプレッシャーの中でプレーできる機会は国内にはない。できれば再びスーパーラグビーでプレーできることを望んでいる」と、新たな可能性への期待を示していた。

 サンウルブズは日本代表候補選手の強化の場として2016年に発足。スーパーラグビーに5シーズン参戦したが、2020年シーズンを最後にリーグから除外。最後のシーズンは新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて打ち切られ、チームも解散した。今回、日本代表の遠征前の強化試合の相手として、国内でプレーする選手を中心に再編成されていた。