日本選手権を兼ねたトップリーグ決勝で、パナソニックがより一層の強さを発揮。相手の出方に対して読みを効かせた、ミスの少ないプレーで主導権を握り、オールブラックスSOのボーデン・バレット選手を擁したサントリーに思うようなプレーを許さなかった。

パナソニックは試合開始5分、キックオフから攻めるサントリーに自陣で守勢となるが、CTBディラン・ライリーがバレット選手の大外へのロングパスをインターセプト。そのまま約60メートルを独走し、ゴール下へトライを決めて先制した。その後は、SO松田力也選手が安定したキック力でPGを重ねて、13-0とリードを奪った。

 前半30分にはパナソニックが攻め込み、最後は松田選手からパスを受けた福岡選手がタッチライン沿いを加速。相手選手2人をかわして左隅に飛び込み、自身の今季14本目のトライで5点を加えてスタンドの観客を沸かせた。

 2017-2018シーズン以来6度目の優勝を目指すサントリーは前半終盤、バレット選手のパスを受けたCTB中村亮土選手が自ら出したキックをインゴールで押さえてトライを返し、バレット選手のコンバージョンも決まって7-20としたが、直後にペナルティを取られて再び松田選手のキックでパナソニックに23-7と突き放された。

 後半、サントリーは開始早々にWTB中鶴隆彰選手がトライを決めて反撃に転じ、その後も交代出場したSH齋藤直人選手とFB尾崎晟也選手の70分、78分のトライとバレット選手のコンバージョンで加点して5点差まで詰め寄った。

しかし、パナソニックは相手にトライを決められて点差を縮められながらも、失点の直後に得点を返す。55分にはFWで押し込んでPRヴァルアサエリ愛選手がトライで5点を加え、73分にはPGを交代出場の山沢拓也選手が成功させて点差を広げ、そのリードを最後まで活かして勝利した。

ディーンズ監督、「満足している」

 パナソニックのリーグ制覇は2015-2016シーズン以来通算5度目でリーグ最多タイ。2014年からチームを率いるロビー・ディーンズ監督にとっては3度目となる。

元オーストラリア代表指揮官は、「最後のトップリーグにふさわしい試合となった。サントリーらしい反撃もしてきたが、相手の出方は分かっていた。終わり方と結果に満足している。我々は昨季から負けなしの唯一のチームでタイトルに値する」と胸を張った。

特に、10番に松田力也選手と山沢拓也選手の日本人選手を起用して戦い抜いた点について、「チームと選手のレベルを高めるために我々外国人がいる。若い彼ら二人は今日、何ができるかを示した。選手の活躍を嬉しく思う」語り、と選手たちの成長に目を細めた。

松田選手は、「バレット選手を自由にするとやられる。そこにしっかりプレッシャーをかけようと、チームみんなでやった。意識の高さがある」と話した。

パナソニックはリーグ戦を6勝1分けでホワイトカンファレンスを首位で突破し、プレーオフでも近鉄、キヤノン、トヨタ自動車に勝利して決勝に進出。新型コロナウィルス感染拡大で6節のみで打ち切られた昨季も6戦全勝だった。日本選手権は前身の三洋電機を含めて6度目の獲得となった。

サントリーのミルトン・ヘイグ監督は、「パナソニックはいいチームで、いいディフェンスで我々にプレッシャーをかけてきた。我々は後半は良かったが、自分たちのテンポでプレーすることができなかった。パナソニックにはおめでとうと言いたい」と話し、「みんな落胆しているが、この悔しさを忘れずに来季へ向けてしっかり準備をしたい」と話した。

 サントリー主将の中村選手は、先手を獲りたかったところで相手に先制トライを奪われて「最初にモメンタムが相手に行った。なかなか勢いに乗れなかったが、そこがパナソニックの強さだと思う」と肩を落とした。

バレット選手、「機会があれば戻ってきたい」

 今季のみの契約でニュージーランドに戻るバレット選手は、日本でのラストゲームに敗れて、試合後のピッチでは無念そうな表情を見せていた。

「パナソニックは我慢強く規律がしっかりした素晴らしいチーム。彼らはチャンスをきっちりとモノにした」とバレット選手。相手のラインスピードの速さやジャッカルのうまさなどを考慮しながらプレーしたが、思うような展開にできず、「こちらが様々なコンテストキックを蹴る感じだった。それでも我慢して展開しようとした。ハーフタイムでリードされていても、勝てるチャンスはあると思っていた」と振り返った。

 開始早々にパナソニックのライリー選手にロングパスをインターセプトされた場面については、「外にパスが通っていればトライになっていた。ライリーのスピードは計算に入っていたが、うまくいかなかった」と話した。

 トップリーグについては、「スピードもスキルもある素晴らしいリーグ。6カ月間、サポーターに応援してもらったことに感謝している。最後をいい形で終われずに残念だが、自分がチームに新しい価値をもたらすことができたのなら光栄だ」と述べた。

 「サントリーのクラブもスタイルも大好き」と話す29歳のニュージーランド代表は、今後は2年契約をしたスーパーラグビーのブルーズでプレーし、2023年ラグビーワールドカップへ向けて準備をするとしたが、その後については「ニュージーランドラグビーとあと2年契約がある。まずは次のワールドカップに向けてできることをするが、その後のことは分からない。機会があればまた日本に戻って来たい。ここでの時間はとても楽しかった」と語った。

医師へ転向の福岡選手「何一つ悔いはない」

 医師を目指すために引退する福岡選手は、パナソニック5シーズン目で手にした最初で最後の優勝でキャリアを締めくくった。

 「1プレー、1プレー後悔しないようにプレーしようと心に決めていた。唯一やり残し絵板チームでの優勝を勝ち取ることができて、何一つ後悔なく次の道へ行ける」と話し、最後の対戦相手となったサントリーとの対戦を「一瞬でも気を緩めたら負ける。そいういう試合を最後に持ってきてくれたことに感謝したい」と話した。

 松田選手からのパスでトライを決めた場面について、28歳のスピードスターは、「力也とコミュニケーションが取れていたので、必ず(パスを)放ってくれると分かっていた。DFはいたが、あの形は自分がトライを取り切れる形なので、いつも通り走り切った」と振り返った。

 松田選手も、「堅樹さんが僕を見ていたので、絶対にトライを獲ってくれると思って放った」と話し、「日本ラグビーに一番貢献している選手。優勝して送り出そうと思っていた。実現できてみんな嬉しく思っている」と安堵の表情を見せた。

 福岡選手は最後の笛が鳴った時の心境を訊かれて、「ああ、良かった」という安堵と喜びと、「これで自分はもうラグビーすることはないんだな」という寂寥もこみ上げたと明かした。

今後は選手とは違う形で「ラグビーとワイルドナイツに貢献できることがあれば」と話し、セカンドキャリアについても「前例がないと諦めていた人たち、選手たちが、僕のような新しい挑戦を知って、自分の挑戦に取り組んでもらえたら、僕はすごくうれしい」と語った。

 2003年から始まったトップリーグはこれで終了となり、来年1月からは再編された新リーグが始まる予定だ。