日本ラグビーに大きな影響を与えた偉大な選手が、シーズン終了とともに日本を去る。

「これが僕のラグビー人生最後の試合だった。ラグビーはこれで終わりだ」

トヨタ自動車で昨シーズンからプレーし、今季は共同主将も務めたリード選手が5月15日、トップリーグプレーオフ準決勝でパナソニックに21-48で敗れて大会敗退とシーズン終了が決まると、会見で発言。最後の試合を白星で飾ることはできなかった。

 対戦したパナソニックは、かつてプレーしたクルセイダーズで指揮を執っていたロビー・ディーンズ監督が率いるチーム。リード選手は「指導の成果がパナの戦績に表れている。自分自身、ロビーの下でやれたことは幸運だったし、あの経験が今につながっていると思う」と恩師への思いを口にしながら、「弱みやミスを見せると底をついてくる。ディシプリンが大事になる」と話していた。

曇天の大阪花園ラグビー場で、トヨタは前半を18-17と競り合う好ゲームを展開。試合開始早々、WTB福岡堅樹選手のノーホイッスルトライを許したものの、その後の15分でFL古川聖人選手が1トライ、WTB高橋汰地選手が2連続トライを決めるなどで15-5のリードを奪った。

優勝争い常連のパナソニックは、後半開始5分までにSO松田力也選手がDG1本と4本目のPGを成功させ詰め寄り、試合はトヨタのSOライオネル・クロニエ選手とのPGの応酬で1点差を争う展開になった。

だがそれも後半半ばに途中出場のSO山沢拓也選手がラインを超えると、福岡選手には2トライを加えられ、CTBディラン・ライリー選手にも1トライを決められて引き離された。

リード選手は、「かなり接戦になったが、パナソニックが今季見せてきた良いパフォーマンスをこの試合でも出して逃げ切った。最後の5分でパナソニックの質の良さがモノを言ったと思う」と話した。

 パナソニックFL布巻峻介選手は、「前半はプレッシャーを受けて苦しい時間帯が続いた」と振り返り、ビハインドの展開では「自分の仕事に100%集中するように」とチームに声をかけていたと明かし、ハットトリックを達成した福岡選手も、「トヨタは前半が強いのでタフな試合を想定していた。後半は自分たちの力を出して、自分たちらしいプレーができたと思う」と振り返った。

今季限りで引退する福岡選手は、決勝について「チームにとっても僕にとっても最後の試合になる。パナソニックとしてもう一度優勝できるように全力を尽くしたい」と語った。

リーダーシップの伝授とチームの成長

ニュージーランド代表キャップ128を誇るリード選手は、2011年と2015年のラグビーワールドカップでは連覇に貢献。3度目のワールドカップとなった2019年日本大会にも出場し、大会後に代表を引退したが、その後トヨタ自動車に加入。日本での1年目となった昨シーズンは新型コロナウィルス感染拡大を受けて6節で中止となったが、自身も負傷で3節以降を離脱。だが、今季はチームの共同主将を務め、リーグ戦5試合とプレーオフ3試合に出場して2トライもマークした。

チームは今季、強さを発揮し、目標とした初のリーグ制覇へあと一歩に迫った。

「生まれながらのリーダー気質」というリード選手は、「トヨタではメンターとしての役割が大きくて、フィールド以外でも、チームが今より良くなって正しい方向に導くことにやりがいを感じている」と話していた。

同僚には若手やトヨタで社員として勤務をしながらプレーする選手も少なくないことから、「選手としての自信を付ける」ことを念頭に、チャンスを受け入れることや、プレッシャーに邪魔されずにチャンスを活かせるように、言葉をかけることもあったという。

共同主将を務めたSH茂野海人選手や古川選手は、ニュージーランド代表主将も務めた35歳を「何をどう話すか、いつ伝えるか、伝え方がうまい」、「リーダーシップについて学んだ」と異口同音に称賛。古川選手は「最後は優勝して送り出したかった。それができなくて悔しい」と話した。

リード選手は今季のトヨタの成長について、「一番大きなことはメンタル面でのアプローチ。大きな試合や大きな瞬間のプレッシャーにいかに対処するか、選手全員がいい形で取り組んできている」と話して、ラグビーの技術的な面と併せて、確かな手ごたえを感じていた。

コロナ禍のために制限の多い中での2シーズンとなったが、リード選手は「日本でのラグビーをとても楽しんだ。日本のラグビーは今後伸びていくと思う」と言及。

トップリーグのラグビーを「とても攻撃的なマインドセットを持ったラグビースタイルをしているし、外国人選手が日本人選手へ良い影響を与えていて、選手たちが学ぶことに熱心だ」と評して、「良いスタイルでラグビーをしているので、今後も高いレベルでのプレーを期待している。楽しみだ」と語った。

退団のフーパ―選手、日本人選手へ大きな刺激

 リード選手とともにトヨタのバックローでチームを支えてきたFLマイケル・フーパ―選手も、今季限りでの退団を表明し、帰国してオーストラリア代表の活動に参加すると話した。

 オーストラリア代表で105キャップを保持する29歳は今季トヨタに加入。全10試合に出場し、リーグ第6節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦では2トライも決めた。

 「日本のラグビーのスピードと競争力には感心した。積極性が高くて、キックが少ない。自陣22メートルからでもボールを使ってプレーするチームが多いので、とてもエキサイティングなプレーになっている」と話していた。

 同じフランカーの古川選手はフーパ―選手と練習や試合を共にして、「テレビで見ていた憧れの選手と、夢のような時間だった」と言い、身長179センチ、体重95キロの古川選手に対して、フーパ―選手は182センチ、101キロ。似たようなサイズでもあり、多くの刺激を受けたと明かす。

「ほぼ毎日練習でボールを獲る意識など一つ一つ教えてもらって、方法が見えてきた。これを続けて、フーパ―選手を超えるような選手になりたい」と話した。

フーパ―選手はトヨタで最後となった試合について、「プレッシャーをかけてパナソニックを止めて、自分たちの良いところもあったが、相手はフィニッシュが強く、こちらの小さなミスから点を重ねられた」と悔しさを滲ませたが、「日本での時間をすごく楽しんだ。このあとはオーストラリアに戻って、フランスとの代表戦があるので、まずはそこでプレーしたい」と、ワラビーズでの次の舞台へ目を向けていた。

サントリーが決勝進出、バレット選手が21得点

 なお、16日に行われたもう一つのプレーオフ準決勝では、サントリーサンゴリアスがクボタスピアーズをノートライに抑えて26-9で勝利。ニュージーランド代表のSOボーデン・バレット選手がキックで21得点を挙げ、WTB江見翔太選手がこの試合唯一のトライを決めて決勝進出に貢献した。5月23日の東京秩父宮の決勝でパナソニックと対戦する。

 クボタは準々決勝で前回王者の神戸製鋼コベルコスティーラーズに14人で勝って初の4強へ進出。SOバーナード・フォーリー選手を出場停止で欠きながらもFW戦で相手にプレッシャーをかけてタフに挑んだが、試合の経過とともにペナルティで相手に得点の機会を与える展開となり、試合巧者のサントリーに点差を広げられた。

 バレット選手は、「プレーオフまでくれば簡単な試合は一つもない。チャンスを得点につなげようと思っていた」と振り返り、「決勝進出できてうれしい。ともに戦った仲間を誇りに思う」と話した。

 クボタ主将の立川理道選手は「自分たちのラグビーができない時間が多かった」と嘆いたが、「今季は1試合ごとに学んで進んで来たことはチームにとって財産。今季の学びをしっかり来季の成長につなげたい」と話していた。