「グラウンド練習は久しぶりだったが、“サクラウェーブ”のスタンダードを忘れずにいい練習ができている。」

北海道の定山渓での合宿中にオンラインで取材に応じた斉藤聖奈選手は、昨年3月以来となるチーム活動についてそう話すと、笑顔を見せた。

 新型コロナウィルス感染拡大の影響でほとんどのスポーツ活動がストップし、サクラフィフティーンこと、女子15人制日本代表も活動休止を余儀なくされた。3月中旬に予定されていた2021年ラグビーワールドカップ・ニュージーランド大会のアジア予選も延期になった。

自粛期間中、代表チームではオンラインを活用。レスリー・マッケンジーヘッドコーチと選手の個別ミーティングをはじめ、8月にはチームとして初の試みとなるオンライン合宿も実施した。

だが、練習は選手のハードワーク次第。所属チームや個々の状況によっては練習環境の違いもある。齊藤選手は、今回の集合時に選手のコンディションにばらつきが出る可能性も考えていたというが、それは杞憂に終わった。

「質が落ちているかなと思っていたが、そういうところは感じられない」と前回2017年ワールドカップで日本代表キャプテンを務めた28歳は言う。

「ワールドカップへ向けて、自粛期間中もみんなが意識してやってきた。それを感じられる合宿になっている」と指摘。合宿中に実施したフィットネス測定でも「前回3月の合宿よりも、みんな数値が上がっていた」と明かした。

 チームは昨年1月のマッケンジー体制のスタートから、“サクラウェーブ”という表現を採用。波に見立てたチームが一つの塊となって動き、多様なパワーやインスピレーションを生み出そうというもので、選手たちの意識付けになっている。

齊藤選手によれば、その姿勢の下に今回は「1%」をテーマにパフォーマンスの積み上げに取り組んだ。自身のパフォーマンスを1%上げる、チーム戦術でもゲインを1%上げるなどで、「1%」の設定に、マッケンジーヘッドコーチの明確な方向付けと堅実なチームづくりの様子がうかがえる。

合宿では感染防止のための対策も当然ながら徹底した。参加38選手を3グループに分け、宿舎での生活もグループごとにフロアで分け、「密」になる状況を回避。ミーティングも小グループで実施し、練習時の飲水も毎回必ず手指をアルコールで消毒するという徹底ぶりだったという。

 

アジア予選延期も前向き

 

 チームが当面の目標としているのは、来年のワールドカップ出場を決めるアジア予選だ。日本はカザフスタンと香港と対戦することが決まっており、この3者でトップの成績を収めたチームが来年9月18日から10月16日までニュージーランドで開催される大会への切符を得る。

だが、この予選大会は新型コロナウィルス感染流行を受けて延期を繰り返し、結局、年内の実施は見送られ、開催時期の見通しも立っていない。準備を進めるには簡単ではない状況だが、齊藤選手は言う。

「自分たちがターゲットとしているのはワールドカップなので、予選は一つの通過点。自分たちがコントロールできることをしっかりコントロールして、みんな前向きにやっている」と語る。

 齊藤選手は、元カナダ女子代表FWとして活躍したマッケンジー指揮官のアドバイスで、前回2017アイルランド大会のフッカーからフランカーに転向。機動力を買われてのコンバートで、新境地を切り拓こうとしている段階だ。予選延期も「準備をする時間ができたと思って、いい時間にしている」とプラス思考だ。

 現体制では、初のテストシリーズとなった昨夏のオーストラリアとの2連戦は連敗に終わったが、秋の欧州遠征ではイタリアと引き分け、スコットランドに勝利し、チームとして結果も出し、収穫を手にしていた。齊藤選手はその直後に現キャプテンのHO南早紀選手とともにバーバリアンズに選出され、ウェールズとも対戦した。

 

女子RWC日本招致、選手も後押し

 

 昨年のラグビーワールドカップ日本大会で、男子日本代表が初のベスト8入りを達成し、日本国内は大きな盛り上がりを見せた。その様子に、サクラフィフティーンでも新たな思いが出ているという。

「女子も絶対に日本でやりたいという思いはすごく強い」と齊藤選手。「どうやって女子ラグビーを日本に広め、周知していくか」を選手同士で話し合っていると明かした。

「日本で開催できたら私たちのモチベーションはもっと上がるし、女子ラグビーに注目してもらって女子ラグビーの価値ももっと上がる。選手としては、すごく日本開催を望んでいる」と言葉に力を込めた。

斉藤選手とともに2017年大会に出場して、当時は高校生ながら大会のベスト15にも選出されたSH津久井萌選手も日本開催に賛同する。

「あれだけ盛り上がってラグビーの認知度も上がった。結果を残したことがすごいこと」とオンラインでの取材で語り、女子大会の日本開催で「自分たちも男子のように結果を残して、女子ラグビーをもっと広めていきたい」と話して、思いを膨らませている。

日本ラグビーフットボール協会では、女子大会を含めたワールドカップの日本招致について検討の予定で、今秋にも方向性が出る見通しだ。

 

SH津久井選手は南アフリカ代表SHに注目

 

津久井選手は、昨年の大会では優勝した南アフリカ代表SHファフ・デクラーク選手の動きに同じスクラムハーフとして「すごく参考になる」と注目していたという。

「デクラーク選手は、スクラムハーフなのにディフェンスでもアタックでも強気に行くところが、自分にとって刺激になった」と語る。

青山学院大学に通い、横河武蔵野アルテミ・スターズでプレーする20歳は、今回の新型コロナウィルス感染拡大による自粛期間も、「ゲームフィットネス」という自身の課題に着目。群馬県の実家に戻って走り込みなどを行う一方で、家が近所というチーム同僚の桜井綾乃選手の協力も得て、試合中に疲れた時を想定してパスの精度を高める練習などに取り組んだ。

 「スクラムハーフはフォワードとバックスのつなぎ目。しっかりコミュニケーションをとっていきたい」と津久井選手は言う。

女子日本代表SHは、「アジア予選に優勝してワールドカップの出場権を掴むこと。ワールドカップで1つでも多く勝つこと。その目標は全く変わっていない」とキッパリ。

コロナ禍による休止や予選延期も、サクラフィフティーンの目指すところにブレはない。

 

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