2020年シーズン限りでスーパーラグビーからの除外が決まっていたサンウルブズが、5シーズンの短い歴史に幕を下ろした。

最後の活動の場は8月8日(土)に東京の秩父宮ラグビー場で行われたメモリアルセレモニーで、夏の昼下がりに行われたイベントにはHO堀江翔太選手(パナソニック)、FLリーチマイケル選手(東芝)、SH田中史朗選手(キヤノン)ら日本代表としてもお馴染みの顔ぶれをはじめ、グレイグ・ミラー選手(パナソニック)や先日現役を引退したばかりの大野均氏(東芝)など歴代プレーヤー17人が集結した。

スーパーラグビーでも屈指の多国籍軍だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、ジョージア代表HOジャバ・ブレクバゼ選手や最後のシーズンで共同主将を務めたジェイク・シャッツ選手ら、出席を希望しながら渡航制限のために実現しなかった外国籍メンバーは多い。

スタジアムで見守った観客も、スポンサーやファウダーズクラブメンバーなど約150人という限られたものだったが、多くのファンがテレビ中継を通して最後のイベントを見守り、その中で選手たちはサンウルブズでの思い出などを語った。

2016~2019年にプレーしたPR稲垣啓太選手(パナソニック)は、「サンウルブズに感謝の気持ちを贈りたい。自分を成長させてくれ、日本ラグビー界にも力をくれた」と語った。

最後のシーズンにチームを率いた大久保直弥ヘッドコーチは、「サンウルブズのファンは世界一。5年で数えるほどしか勝てなかったが、勝った時のスタジアムとチームの一体感は忘れられない」と話した。

 

最多キャップは浅原選手

2020年シーズンのチーム表彰も行われ、最優秀選手はLOマイケル・ストーバーク選手(近鉄/メルボルン・レベルズ)が獲得。今季は新型コロナウィルス感染拡大のためにサンウルブズは6試合を戦ったところで中断し、そのままシーズン打ち切りとなったが、ストーバーグ選手は全試合に出場し2トライをマーク。スーパーラグビーが選ぶチーム・オブ・ザ・ウィークに3度選出されていた。

最優秀新人賞には天理大学4年生のWTB/CTBシオサイア・フィフィタ選手が選ばれ、チームマン・オブ・ザ・イヤーはSH木村貴大選手が受賞。選手の体のケアに努めたトレーナーの宮崎吉朗氏には、年間優秀スタッフ賞が贈られた。

また、5シーズン通算での最多出場選手は、初年度の2016年から4シーズン連続で在籍して計43試合に出場したPR浅原拓真選手(日野)だった。

 

数字以上の効果

サンウルブズは、2019年ラグビーワールドカップへ向けた日本代表の強化の一環として日本代表候補選手を中心に編成され、2016年からスーパーラグビーに参戦した。

初年度からの5シーズンでの通算成績は9勝1分け58敗で、決して芳しい成績ではない。だが、ラグビーワールドカップでは日本代表がベスト8入りを達成し、サンウルブズはその土台作りに大きな役割を果たしたと広く認識されている。

 日本代表最多98キャップを誇る大野氏は2016~2017年にプレーした。「サンウルブズに参戦することで、テストマッチレベルの試合を毎週コンスタントに経験できた。南アフリカやニュージーランドなど南半球へツアーすることで、選手1人ひとりが鍛えられた」と話し、メンタル面での成長を指摘。海外の強豪と対戦しても動じなくなったと語った。

 ラグビーワールドカップ代表メンバーでサンウルブズでは2016~2019年にプレーした堀江選手は、「高いレベルでやり続けられたのがよかった。トレーニングでフィジカルな部分を上げることができた」と振り返った。また、初年度2016年シーズンにキャプテンを務めたことに触れて、「きつい状況だったが、チームとしてどう接しなければならないかを学んだ」と話した。

 

若手の経験と新たな舞台

 2019年の日本代表の成功の後も、サンウルブズは今後を担う若手にとって貴重な戦いの場になっていた。

 最優秀新人賞を獲得したフィフィタ選手をはじめ、SH齋藤直人選手(サントリー)とCTB中野将伍選手(サントリー)が早稲田大学在学中に参戦し、試合に出場。そのほかにも、8人の選手がトレーニングスコッドとして活動に参加していた。

 フィフィタ選手は「このチームでプレーできて幸せな時間で、いい経験になった。この経験を活かして次の目標を達成できるようにやっていきたい」とコメントした。

5試合でプレーした中野選手は、先発した2月のハリケーンズ戦でCTBンガニ・ラウマペ選手に「吹っ飛ばされた」経験に触れて、「いままでラグビーをしてきた中で、一番フィジカル的にキツイと感じた試合だった。次は勝てるように努力していきたい」と語った。

また、齋藤選手は6試合すべてに出場し、「チームメイトを含めて外国人選手の中でプレーできた。実戦に勝るものはない。それを経験できたのは大きかったと思う」と振り返った。身長165センチ、体重73キロのSHは、「体格差があるので、スピードなどを活かしていかないと」と今後へむけてイメージを膨らませていた。

 沢木敬介コーチングコーディネーターは、「齋藤、中野、サイア(フィフィタ)もスーパーラグビーを経験できたのが良かった。トレーニングスコッドに大学生を読んでいたので、彼ら若手にはスーパーラグビーの雰囲気を味わい、本当に刺激がある日々を経験できたと思う」と、新たな収穫に言及した。

 2017~2019シーズンにプレーした田中選手も、齋藤選手や中野選手ら若い選手のスーパーラグビー参戦を歓迎。「こういう若手が増えてくれば、日本ラグビーはもっともっと強くなる」と期待する。

 それだけに、今後はスーパーラグビーに代わる強豪との定期的な戦いの場の確保が重要になる。

日本ラグビー協会の森重隆会長は、「サンウルブズでやってきたことをいかに残していくか。日本ラグビーに託された課題だ」と話し、大野氏は「サンウルブズのようなチームを結成して、ニュージーランドやオーストラリアのような強豪チームと対戦することも一つ、視野に入れてもいいかと思う」と提案する。

 ポスト・サンウルブズが、日本ラグビーの今後へ注目すべきポイントであることは間違いなさそうだ。

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