7人制ラグビーが五輪種目となって2大会目となる東京オリンピックは、2021年7月29日に東京スタジアムで女子7人制競技が幕を開ける。前日まで同会場で開催されている男子7人制に続いての登場で、サクラセブンズこと、女子セブンズ日本代表は、前回リオ大会では12チーム中10位に終わったが、今回はホームの観客の前でメダル獲得を目指している。
東京大会へ向けてサクラセブンズは当初、今年3月下旬に南アフリカで開催予定だったHSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ出場権をかけたチャレンジャーシリーズや、今季残りのワールドシリーズへのゲスト参加などを通して、今年7月に予定されていた五輪本番へ備える予定だった。
ところが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受けて、3月中旬にチャレンジャーシリーズの延期が決まり、その後、東京オリンピックも1年延期が決定。同月下旬からはチーム活動も休止せざるを得ない状況となった。
想定外の展開で、チーム全体での活動ができない状態が続いたが、サクラセブンズを率いる稲田仁ヘッドコーチはすべてを逆手に取り、プラスに活用してきた。
三重県出身の37歳の指揮官は、大会後の11月からヘッドコーチ代行として、翌年7月からはヘッドコーチとして東京オリンピックでのメダル獲得を目指して、女子セブンズ日本代表を率いてきた。
当初今年7月に開催予定だった東京大会へは、昨年から練習合宿とワールドシリーズへのゲスト参戦を休む間もなく繰り返し、強化を図り続けていた。それだけに、自粛期間ができたことで「一回立ち止まって、ここまでやってきたことを振り返り、どうやったら目標に到達できるかを深く考える時間になった」と稲田ヘッドコーチは言う。
チームの強化のレビューと対戦相手の分析に時間を割いて、「ここが日本の強みだと、改めて見つめ直した」と話す。
また、選手やスタッフとのコミュニケーションもオンラインで定期的に取りながら、選手たちにはトレーニングメニューを渡して各自で取り組みを促す一方で、「今しかできないこと」を主眼に栄養や睡眠、ラグビーについての座学に着手した。
「オリンピックを目指すアスリートとして、その根幹になるような知識。本当に大事だが取り組めていなかった」として、チームとして学び直す時間に充てた。講師を務めるスタッフ自らも学び直すことになり、チーム全体での底上げにつながったと振り返る。
五輪へ向けてのピーキング
7月に入って、選手たちは所属先チームでの練習も再開し、体を動かす機会が徐々に増加。これを受けて、代表チームでは8月から代表チームとしての活動を段階的に再開する予定だ。
オリンピックへ向けたチーム強化には国際試合が不可欠だが、チャンレジャーシリーズは中止となり、来季のワールドシリーズへの昇格チームはナシという扱いになった。そのワールドシリーズの日程も、まだ発表されていない。日本国内だけでなく世界でも感染状況が再び悪化している地域も少なくないため、稲田ヘッドコーチは年内の国際大会開催は難しい場合もあり得ると見ているが、動じる様子はない。
「昇格大会がなくなったのは、実戦の機会が得られないというマイナスではある」と、指揮官は影響を認める。
世界の強豪と定期的に対戦できるワールドシリーズへのコアチームとしての参戦は、東京オリンピック後も女子7人制日本代表がレベルアップを続けるために貴重な強化の機会となるだけに、前回昇格を逃したサクラセブンズにとっては、シリーズ復帰はクリアしなければならない重要なミッションとなっていた。だが、その昇格大会が今年は見送られた。
稲田ヘッドコーチは「ポジティブに捉えると、大きなピークをオリンピック1つに絞ることができる」と指摘する。さらに、自粛期間中のレビューで得た分析をもとに、チームでの練習に時間をさけると説く。
特に、日本の強みと再認識した「速い動きの中でより正確なスキルを発揮すること」のレベルアップが五輪での成功に不可欠と捉えており、「もう1回、自分たちの武器を磨く、課題を克服するということに、この12月までは特にしっかりと取り組める。大会がないからこそできる部分」とサクラセブンズ指揮官は言う。
「フィジカル、スキル、ラグビー理解のインテリジェンス面も含めて、12月まで目標を設定して、個々の選手をしっかりとレベルアップさせたい。年が明けたら、できるだけレベルの高い相手との実戦を組みながら、その中で評価して強化していきたい」と語った。
1年後の大舞台へ、軌道修正はできている。