一陣の風が吹き抜ける。大竹風美子選手がボールを持って走ると、そんなイメージが浮かぶ。

 今年1月、日本が復帰したHSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ2017-2018第2戦のシドニー大会で、代表デビューしたばかりの日本の新戦力だ。

ナイジェリア人の父親と日本人の母親のもとに生まれた19歳は、高校まで取り組んだ陸上で鍛えた身体能力をフルに生かして、フィールドを動き周り、170センチの長身を活かしたストライドのある走りで相手に挑み、抜き去る。

ラグビーを始めて1年のキャリアだが、「ラグビーが楽しくて仕方がない。もっと早く始めていればよかった」と、弾けるような笑顔を見せる。

 この競技を始めたきっかけは、高校の体育の授業。といっても、ラグビーをしたわけではない。

花園の常連校でもある東京高校で迎えた3年の新学期、女子生徒だけでバスケットをしていた時のこと。ほとんどの選手がボールに集まってばかりで、なかなか展開できない状況になった。業を煮やした大竹選手はボールを奪うと、そのままゴールまで走り抜けたという。

 「バスケットボールだからドリブルしないとダメなんですけど、なんか、走っちゃいました」と笑う。

体育の先生には授業後に職員室に呼び出しを受けた。大竹選手が説教を覚悟して重い足取りで出向くと、先生は思いがけない話を切り出した。

「真剣にラグビーをやらないか?」

 まさに、ラグビー競技を生み出すきっかけを作ったと言われている、エリス少年の現代版だ。

 大竹選手はその時は断った。だが、陸上競技で夏のインターハイに出場して結果も出した。懸命に取り組んできたからこそ達成感を覚えて、大会後、新たに取り組める競技を探していた時に新学期の出来事を思い出して、挑戦を決めたという。

シドニー出場で見えた世界

 もっとも、その後すべてが順風満帆というわけではなかった。日本体育大学に進学してラグビー部に入った後、怪我をして暫くプレーできない時期もあった。だがその期間にはいろいろなプレーの映像を見て過ごした。昨年12月の今季HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ開幕戦のドバイ大会こそ逃したが、第2戦のシドニーには間に合った。

そこで、初めての世界舞台でのプレーを経験して視野が広がったと、大竹選手は言う。

「緊張もしたけど、世界の強豪とこんな風に戦えるんだと、楽しく感じました」と大竹。世界レベルのスピードやプレーを体感して、やれるという手応えと課題を認識し、「自分のレベルがどこにあるのか、見方が広がった」と話す。

 「チームのラインを前に出すことが私の役目。でもシドニーでは、ラインを前に出しても獲り切る力が自分になかったので、点に結び付けられるような選手になっていかないと。1対1では絶対に止められない、対面の相手に怖いと思わせられるような選手になりたい」と意気込んでいる。

 憧れの選手には、自身と同じように陸上競技から転向してきたアメリカのペリー・ベイカー選手やカーリン・アイルズ選手をはじめ、「ボールが渡ると安心できる選手」と描写するニュージーランド女子のポーシャ・ウッドマン選手、そして「あのくらい思い切りプレーできたら」と羨む、南アフリカのロスコ・スペックマン選手らの名前が次々と並んだ。

目標とする選手たちを胸に、次のステップへ踏み出した大竹選手は「まず、自分がしっかり勝負できる選手にならないと」と課題を口にする。その一方で、「シドニーでは余裕がなかった。今度出たらもっと自分らしいプレーを見せられると思う」と期待も膨らんでいる。

 4月21日(土)、22日(日)に福岡県のミクニワールドスタジアム北九州で行われるHSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ第3戦。フィールドを駆け抜ける大竹選手の姿が多くなれば、ベスト8入りを目標に掲げる日本の勝機も膨らむに違いない。