PNC決勝でフィジーに黒星も、日本代表ジョーンズHC「現在地を確認できた」

日本代表は9月21日に大阪で行われたアサヒスーパードライパシフィックネーションズカップ(PNC)2024決勝でフィジー代表に17-41で敗れて優勝はならなかったが、2027年ラグビーワールドカップへのチームづくりを進めるエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは「現在地を確認できた」と収穫を強調した。フィジー代表は連覇で6度目の優勝だった。

「どのぐらい目標から離れているか、ポジティブな点はなにか、今日の試合で自分たちの現状を確認することができた」

世界ランキング13位の日本より3つ上位に位置し、するフィジーとの対戦後、エディ―・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチはそう言った。

 サモアとの準決勝に快勝して決勝に駒を進めた日本は、花園ラグビー場に14,437人の観客を集めて行われた決勝でも、前半半ばまではスピードとテンポの良い攻撃を見せて10⁻3のリードを奪った。だがハンドリングミスも多く、次第にフィジカルの強さを武器にパワーと推進力のあるフィジーに苦戦。後半はフィジーのペースで試合が進み、4連続トライで大差をつけられた。

 3-3で迎えた前半20分、日本はCTBディラン・ライリーがSH藤原忍のパスを受けて抜け出し、自ら前へ蹴り出したボールをインゴールで押さえて5連続で均衡を破り、FB李承信がコンバージョンを決めて10-3とリードした。

 その後も日本はディフェンスでフィジカルの強い相手に食い下がり、激しい競り合いを続けたが、前半33分にフィジーがSO立川理道へのキックチャージから足を活かして攻め込み、WTBヴアテ・カラワレヴがインゴールに持ち込んで5点を返し、SOケレブ・マンツのコンバージョンも決まって10-10と追いつかれた。さらに、前半38分に日本はHO原田衛がヘッドコンタクトでイエローカードを受けて一時退場となった。

 後半序盤も粘りを見せていた日本だったが、相手のプレッシャーを受けて攻撃がスローダウン。一方、フィジーは後半16分のPGとパリオリンピックで7人制代表としてプレーしたポニパテ・ロンガニマシが途中出場から2分後にトライをマーク。流れと勢いをモノにした。

フィジーは後半27分、30分、35分と連続トライで加点し、大会最優秀選手に選ばれたマンツは安定感のあるキックですべてのコンバージョンを成功させて、41-10と大きくリードを奪った。

日本は、試合終了直前にWTBマロ・ツイタマがトライを決め、李が2点を加えたものの、反撃には遅かった。

 

「古い癖が出てオーソドックスなチームに」

 日本代表のジョーンズヘッドコーチは、フィジーについて「彼らはティア1圏外にあるチームにとってはタレント育成の素晴らしいモデルだ。ほとんどの選手がスーパーラグビーのフィジアン・ドルアでプレーし、スコッドの選手層に厚みと幅をもたらしている。今日もとてもタフなテストマッチを披露した」と称賛した。

一方で、自らのチームについては、「我々の若手選手の努力はよかったが、十分ではなかった」と述べて、セットピース、ブレークダウン、空中戦の競り合いを例に挙げて「どのエリアでも勝てなかった」指摘し、ハンドリングエラーの多さについても「ボールを落とせば相手にプレッシャーをかけることもできない」と厳しい評価を示した。

 特に、相手のプレッシャーで日本の攻撃がスローダウンした点に触れて、「相手のプッシャーで何人かの選手に古い癖が出て、オーソドックスなチームに戻ってしまった」と述べて、「それでは強さを発揮できない。我々は速く、大胆で果敢なプレーをすることで違いを見せることができるのだから」と求めるプレースタイルを改めて強調。「若手には良いレッスンになっただろう」と語った。

 

「リーグワンでは味わえない」

 6月のイングランド戦にリザーブ出場での代表デビューから今大会4試合すべてに先発してきたSH藤原忍は、「ラック周りにプレッシャーがかかって、ボールがこぼれたり継続できなかったり、そういうところから相手に勢いに乗られてしまった」と振り返り、ブレークダウンでのプレー判断や周囲とのコミュニケーションなど反省点を口にしたが、「リーグワンでは味わえないプレッシャーでやれたことは収穫」と話した。

 LOワーナー・ディアンズは、フィジーが勢いを得て以降は「自分たちのやりたいようなラグビーができなかった。そこを修正しないといけない」と話し、「モメンタムを持てない試合で何ができるか」を課題に挙げた。

立川理道キャプテンは、「前半もう少し勇気を持ってジャパンのラグビーができたかと思うし、そこを10番としてキャプテンとして引っ張れなかったことはすごく悔しい。アームレスリングのような展開が続いていた。ミスも多くてなかなか突き放すような展開ではなかった。あそこで自分たちが突き放すにはどうするか、これから詰めていかなければならない」と話した。

 

ライリー、チームはPNCで成長

経験の浅い選手が多いチームのなかで、この決勝で代表戦24キャップとしたCTBディラン・ライリーは、体調不良で先発を外れた6月のイングランド戦以降の2試合と今大会も決勝までの4試合すべてに先発して決勝では5戦連続トライをマーク。攻守に存在感を示してきた。

 「優勝するために来たので達成できず残念。自分たちは3試合連続でとてもいいパフォーマンスができていたので自信もあった。この結果にはがっかりだ」と肩を落とし、「試合を通して流れをつかめなかったが、用意したゲームプランがうまくいかなかったときに、そこに順応できず、フィジーのプレッシャーに負けてしまった」と振り返った。

 一方で収穫に言及。「今大会を通してポジティブなことが多かった。一番良かったのは4試合の連戦で自分たちが毎週成長できたことだ。今日の試合で出た課題を修正して次へつなげていきたい」と語った。

 自身の得点については、「自分一人の力ではなくて、チームとして勝つために自分が役割を遂行したまでで、これからもチームのために自分の役割を果たしたい」と話してチームワークを強調。「勝つために、チームとしてしっかりした繋がりが大事だし、ミスから学んで成長につなげたい」と話した。

 

成長を手に10月のNZ戦へ

 日本代表は2015年ワールドカップを率いたジョーンズヘッドコーチが9年ぶりに指揮官に復帰し、5月から本格始動。初のテストシリーズとなった6~7月はイングランド、ジョージア、イタリアに3連敗だったが、今大会ではアウェイでのカナダ戦、熊谷でのアメリカ戦とプール戦を2連勝で準決勝に進出し、サモア代表に勝って3連勝で決勝に進んでいた。

 ここまでの7試合を終えてのチームと選手の成長について、ジョーンズヘッドコーチは「チームは強くなっている」と評価。立川理道キャプテンを中心に選手間の繋がりや連係が向上していると述べた。

「我々はもっとハードに、もっと時間をかけて取り組まなければならない。そうすることで求められるレベルに到達できる。ハードワークを続けて2027年までに良くしたい」と語り、直近のターゲットへ視線を向けた。日本代表の次戦は10月26日に横浜でニュージーランド代表と対戦する。

「最も重要なことはニュージーランドに勝つために準備をすることで、フィジカルで上回る相手にスピードと戦術的にもスマートに戦って勝てる方法を用意したい。これまで接戦はなかったようだが、今回はニュージーランドを接戦に持ち込みたい」と、ジョーンズヘッドコーチは言った。

秋のシリーズでは日本はこのほかフランス代表、ウルグアイ代表、イングランド代表と予定だ。

 

フィジー、前半は想定内

 5トライを奪ったフィジーはWTBヴアテ・カラワレヴと後半途中出場で初キャップのポニパテ・ロンガニマシがそれぞれ2トライを決め、大会最優秀選手に選ばれたSOケレブ・マンツがすべてコンバージョンとPG2本を成功させて、6度目の優勝を手にした。

 前半終盤まで日本にリードを許す展開になったが、HOテヴィタ・イカニヴェレ主将は、「最初の30分は日本がスピードを生かしてくることは分かっていたし、実際そうなったが、そのシナリオで練習もしていた」と想定済みだったと明かし、「僕らは互いを信頼しているし、みんな集中できていたので後半反撃できた。ベンチ出場の選手たちがいい仕事をした」と笑顔で振り返った。

 フィジー代表のミック・バーンヘッドコーチは、「後半、力を発揮するようチームをリードしたキャプテンとチームをほめたい。最初の20~25分、日本が全力で向かってきて我々も持てるものすべてを出して対抗していたが、我々は今大会ここまでの試合でいつも後半に入ると力を出して点差を広げてきていた」と、得意のパターンだったこと示唆した。

フィジー指揮官は、「ハーフタイムを見て、後半は大丈夫だと思っていたし、自信もあった。我々のチームには世界クラスのスタッフがいるので、後半、戦えるフィットネスの準備はできていた」と述べて、スタッフを含めたチームとしての勝利を喜んだ。

この日の結果で、フィジーは日本との対戦成績を16勝4敗と更新した。

 

 

日本代表フィジー戦試合登録メンバー:

1三浦昌悟(トヨタヴェルブリッツ)

 →17岡部崇人(横浜キヤノンイーグルス)、後半6分

2原田 衛(東芝ブレイブルーパス東京)

 →16松岡賢太(コベルコ神戸スティーラーズ)、後半29分

3竹内柊平(浦安D-Rocks)

 →18為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋東京ベイ)、後半6分

4エピネリ・ウルイヴァイティ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)

 →19アイザイア・マプスマ(トヨタヴェルブリッツ)、後半14分

5ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)

6ファカタヴァ アマト(トヨタヴェルブリッツ)

7下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)

 →20ティエナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ)、後半21分

8ファウルア・マキシ(クボタスピアーズ船橋東京ベイ)

9藤原 忍(クボタスピアーズ船橋東京ベイ)

 →21小山大輝(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、後半14分

10立川理道*(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

 →23高橋汰地(トヨタヴェルブリッツ)、後半12分

11マロ・ツイタマ(静岡ブルーレヴズ)

12ニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)

 →22梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス)、後半21分

13ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

14長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)

15李 承信(コベルコ神戸スティーラーズ)

(注:* はチームキャプテン)

 

フィジー代表日本戦試合登録メンバー:

1エロニ・マウィ (Saracens)

 →17ハエレイティ・ヘテット  (Fijian Drua)、後半17分

2テヴィタ・イカニヴェレ*  (Fijian Drua)

 →16メスラメ・ドロコト (Fijian Drua)、後半31分

3サム・タワケ  (Fijian Drua)

 →18メリ・トゥニ  (Fijian Drua)、後半28分

4イソア・ナシラシラ  (Fijian Drua)

5テモ・マヤナヴァヌア  (Northampton Saints)

 →19メサケ・ヴォゼヴォゼ  (Fijian Drua)、後半17分

6メリ・デレナランギ  (Fijian Drua)

7キティオネ・サラワ  (Fijian Drua)

8エリア・ヴァーナカイヴァタ  (Fijian Drua)

 →20アルバート・トゥイスエ  (Gloucester Rugby)、後半23分

9フランク・ロマニ  (Fijian Drua)

 →21ペニ・マタワル  (Fijian Drua)、後半31分

10ケイリブ・マンツ  (Fijian Drua)

11イライサ・ドロアセセ  (Fijian Drua)

 →23ポニパテ・ロンガニマシ  (Fiji 7s)、後半17分

12イニア・タンブアヴォウ  (Fijian Drua)

13イオセフォ・バレイワイリキ  (Fijian Drua)

 →22アピサロメ・ヴォタ  (Fijian Drua)、前半32分

14ヴアテ・カラワレヴ  (Fijian Drua)

15アイザイア・アームストロング=ラヴラ  (Fijian Drua)

(注:はキャプテン)

 

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